2009年 10月 31日
#221 幸福顔コンテスト

朝のゆりかもめには乗客がすくなかった。座席はほとんど空いていた。ぼくはしばらく坐っていたが、我慢できなくなって立ち上がり、ドア脇に立ってカメラを構えた。どの窓からも輝かしい海が見えたから。
もし酔狂なだれかが「清々しさコンテスト」なんてのを開催したら、「朝の海」の上位入賞はまずはまちがいのないところだ。「雨上がりの高原」とか「朝靄の森」あたりが強敵だろうな。
レインボーブリッジを渡り、芝浦埠頭駅で乗ってきた女性ががらがらの座席に坐らずにぼくの脇に立ったときには、すこしドキリとした。朝には魔法があるのかとおもった。でも海よりもすこしだけ青いブラウスを着た彼女は、やにわに窓の外に手を振ったのだった。すぐ目の前に駅前のマンションがあって、煙草を片手にベランダに寄りかかっていた男が手を振り返した。彼は幸福そうに笑っていた。ぼくは横目で彼女の顔を見た。この世のなかに、こんなに幸福そうな顔があるなんて。「幸福顔コンテスト」があったなら、彼女は金メダルまちがいなしだ、とおもって、ぼくはカメラを胸ポケットにしまった。つぎは「日の出」駅だ。
with GRD3 2009/10/30撮影 ゆりかもめ車内からレインボーブリッジ