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花言葉の島

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 八重山諸島のそのまた外れの南の果てに、お花畑に埋めつくされたようなちいさな島がある。全周わずか2キロ程度のとてもちいさな島だから、地図で捜しても見つからないかもしれない。そこにいまでも花言葉を話す人々がいる。
 彼がその島を訪れたのは、うりずんの頃で、海風とはおもえないほど爽やかな風が吹いていた。風に運ばれてくるのは人々の交わす花言葉だった。島は周囲をリーフに囲まれていて、浜辺に寄せる波も囁くようなら、人々の声はやどかりの叫びよりもちいさい。最初の夜、民宿のちいさな部屋で窓を開け放していた彼は、たくさんの言葉を聴いた。
「儚い恋」「希望を持ってはいけない」「辛抱しないといけない」
 彼は耳を塞ぐように、東京の花屋で買ってきた赤いアネモネを窓の外に投げた。
「君を愛している」
 翌朝、目を覚ました彼が窓を開けると、途端に香しい匂いが流れ込んできた。彼は窓辺に立ったまま輝く海を見つめ、気絶するくらいおおきな深呼吸をして、その言葉をおもいっきり吸い込んだ。するとみるみるこころが充実してゆき、頭のなかに「期待」という言葉が響き渡ったのだ。
 with GRDII 2009/3/7撮影 自宅
# by bbbesdur | 2009-03-07 16:29 | 短編小説

雨の日に足りないもの

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 雨の日に足りないのは笑顔だ。雨は人を憂鬱にする。それがなぜなのかわからない。すくなくともぼくは雨の日になると陽気になる、なんていう人物を知らない。だから雨の日に笑顔を見るとほっとする。世界がすこしだけ明るくなる。雨の日に、人が皆が笑っていたら、あるいはすこしは雨が好きになるかもしれない。
 with GRDII 2009/3/6撮影 恵比寿
# by bbbesdur | 2009-03-06 23:53 | around tokyo

こころの準備

こころの準備_a0113732_2314937.jpg

 ふいに目の前に現れた印象的な女性を撮ろうとおもっても、なかなかうまくいかない。
 あらかじめわかっていればいいのだが。たとえばXX時XX分XX秒にXX駅のXX番目の柱の陰から、XXXX子に良く似た女性が姿を現す、というように。
 それさえわかっていたならば、ぼくは、ぼくは、きっと、きたるべきその瞬間に備えて、正確な距離を測り、理想的な絞りを決定した上で、遅すぎず速すぎない絶妙なシャッタースピードを選び、顎を引き、脇を締めてしっかりとカメラをホールドしつつファインダーを覗く、ようなヤボなことはしないで「どこかでお会いしたことがあるような気がするのですが」といってみるのだ。
 with GRDII 2009/3/3撮影 千代田線赤坂駅
# by bbbesdur | 2009-03-06 02:41 | around tokyo