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Open Sesami !

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<見知らぬ土地を旅するときは、夜になってから街に入りなさい。そうすれば、すくなくとも夜が明けるまで、君はお伽噺の世界にいることができる>
 といったようなことを、昔、開高健がエッセイ集のどこかに、もっともっと美しい文章で書いていた。あるいはその言葉はだれかの(開高のことだからフランスのだれかの)著名な言葉の引用だったかもしれない。
 だれが初めにそういったかはともかく、この言葉はとてつもない夜の奥行きをもってして「なぜ人は旅をするのか?」という命題に答えを出している。凡庸ではない。
 といったようなことも、ひょっとしたら開高がすでに書いているかもしれない。もっとずっと美しい文章で。
 というようなことをいつまでも繰り返していても仕方がないのだが、いま、ぼくは旅先で、自宅の本棚から彼の本を引っ張りだして調べることができない。
 昨晩、夜のフライトでこの街にやってきて、まるで初めて訪れた街にいるような気がした。ながいあいだ、ぼくはこの街を乾いた紙のように退屈で個性の乏しい地方都市だとおもいこんでいた。日が沈んでから到着したのは初めてのことだった。夜がすべてを変えていた。地方都市は光がすくないから、それだけ闇の奥が深くなる。飛行機で飛んできて、仕事をして、地元の同僚と飲んで、朝起きて、飛行機に乗って帰ることを繰り返してきたぼくは、この街が目の前にお伽噺の入り口をおおきく開いてくれていることに気がつかなかったのだ。
 with GRDII 2009/3/9撮影 山口県岩国市
# by bbbesdur | 2009-03-10 22:55 | west japan

三軒茶屋の衛生兵

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 今朝、7:16発の電車に乗った。奇跡が起きて、ぼくの前に坐っていた男性がすぐ次の駅で降りた。ぼくは幸運に感謝して座席に坐った。なかなか素敵な一週間の始まりじゃないか、とおもった。ぼくは眠った。
 目の前に立っていた男がぐにゃりと車両の床にあぐらを掻くような姿勢で意識を失ったのは電車が三軒茶屋に到着する直前だった。眠っていたぼくは膝になにかが当たったようにかんじた。ぼくも周囲の乗客も慌てた。ぼくは立ち上がり、脇に立っていた男と協力して、男を助け起こした。おそらく5秒ほどの短い時間だったが、男は完全に意識を失っていた。電車が三軒茶屋の駅に到着して扉が開いたとき、ぼくは周囲の人々にむかって「電車を止めた方がいい」といったが、その瞬間に男は回復した。男はぼくが空けた座席に坐って、目を瞑った。額に大粒の汗を掻いている。だいじょうぶだろうか? 
 電車が表参道に着いたとき、男は立ち上がり、ぼくに礼をいった。ぼくは本気で「会社までお送りしましょうか?」といった。美談に聴こえるのはわかっている。でもぼくはそういった。ほんとうに男のことが心配だったのだ。しかし男はしっかりとした声で「いえ、もうだいじょうぶですから」といった。ぼくは立ち上がった彼の足取りを見て、まあいいかな、とおもい「気をつけて」と声をかけ、空いた座席にまた坐った。そのときだった。隣に坐っていた女性が床に手を伸ばし、知らぬ間にぼくが落としていたipodを拾い上げて、「これ」といって差し出してくれたのだ。
 ぼくは乗換駅の永田町で降りた。長大なエレベーターに溢れている人々がいつもとどこかちがって見えた。
 with GRDII 2009/3/9 永田町駅
# by bbbesdur | 2009-03-10 00:35 | around tokyo

戦友たちの休日

戦友たちの休日_a0113732_2358261.jpg

 日曜日の朝、上り電車のなかで、ぼくたちは贅沢を味わいつくすように、お互いの距離を保ちつつ、窓からやってくる光を浴びて、本を読む。
 明日、月曜日の朝、ぼくたちは阿鼻叫喚のなかで、お腹と背中をぴったりくっつけ合って、恋人同士でも恥ずかしがるような破廉恥な姿でお互いを呪い合うだろう。
 でも今日は日曜日、お互いに明日のことはわすれてのんびりしようではないか。そうだ、3人で本屋に行かないか。新宿東口のおおきな書店に。そして帰りにおいしいコーヒーでも飲みながら、好きな本について語り合おうじゃないか。そうやって英気を養い、また明日、ともに前線に向かおうではないか。
 with GRDII 2009/3/8撮影 東京都内
# by bbbesdur | 2009-03-09 00:02 | around tokyo