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株式会社リコーへの手紙(GR DIGITALIIレビュー&インプレッション+個人的な事情)_a0113732_15504215.jpg

 御社のGRシリーズはフィルムカメラだったころから、ずっと気になってはいましたが、ついに購入する機会は訪れず、コンパクト機はCONTAXのTシリーズやオリンパスのμシリーズを使ってきました。GR1が市場に出てきたのは1996年で、GRDigitalが2005年ですから、フィルムカメラとしての寿命はおよそ10年だったわけですね。ぼく自身がデジタルに切り替えたのは、ニコンのF6に最後の寄り道をした後の2006年3月31日のことです。
 初めて買ったデジタルカメラはpanasonicのLumix FX01でした。理由はただひとつ、コンパクト・デジタルカメラではGRD以外に FX01しか28㎜の画角がなかったからです。ぼくに28㎜以外の画角は無用だし、できれば明るい単焦点がいい。ですから、かねてから評判の良い使い勝手はもとより、仕様上からいってもGRDこそ、ぼくの用途にマッチしていました。しかしながら、そのときぼくはまたもやGRを選ばなかった。というのも、ぼく側にややねじくれた事情があるからなのです。そのことについては後で触れることにして、いまはまず購入してから3ヶ月経ったGRDIIの感想を述べさせていただきます。
 おなじ製品であっても使用用途によっては、まるでちがった評価になってしまうから、まずはぼくの使い方を紹介させてください。
① 95%が街中でのスナップ撮影(東京の「街中」には光線に恵まれない地下道がおおく含まれている)。
② 出張がおおく、旅先でも使いたい。
③ 常にカメラを持ち歩いていないと不安(生きている気がしない)。
 といったところでしょうか。
 スナップ撮影こそ、GRがもっとも得意な領域であることは、もう語り尽くされたことでしょうからこれ以上繰り返しません。でも、速写性に関しては、他メーカーもそうそう負けっぱなしというわけでもないようです。一昨日も出張帰りに新宿西口のビックカメラに寄って、発売されたばかりのCX1と富士のF200EXRを触ってきましたが、富士もだいぶ速くなっている。ご承知のとおりFinePixF30ではピント合わせがスナップでは使い物にならないくらい遅いし、焦点距離を固定するようなマニュアル的ないっさいができません。高感度撮影での画像の品質はコンパクト領域ではいまだにベスト3入りするでしょう。でもピントと露出に手間取り過ぎる。街中でのスナップ撮影なんて、ハナっから視野に入れていない。というかそういう趣味性の高い分野は、フィルム(クラッセ)でやってください、という姿勢が濃厚です(ご存知のとおり)。そのあたりがこんどのF200EXRではだいぶ改善されている。あいかわらずの記念撮影最優先カメラであることにはまちがいありませんが、ともかく構えてレリーズするだけの完全オートという発想が徹底していて、顔認識の速度と精度にこだわっているがために、結果的に速写性が確保されているようにおもいます。じっさいに使ってみるとまたちがった感想が湧いてくるでしょうから、このあたりはまたいつか。
 いずれにしてもGRDIIの良さは、電源イルミネーターが消えたり、ディスプレイを一時的に消すことができたり、ふたつのMYメニューで頻繁に使う設定を簡単に呼び出せたり、Fnボタンの一押しでスナップモードにすることができたり、露出補正は専用ボタンを押さずに、直接調整ボタンを上下させればいいだけだったり、まちがってフラッシュを発光させることがありえない構造であったりと、撮影者を透明人間にちかづけるためのおもいつくかぎりの設定がぼくのような撮影者にはぴったりです。購入して、家にもどり、やや安っぽいエコパッケージを空けて、さまざまな設定をするたびに、ぼくは「うーん」「うーん」と低く声を出して唸りました。「こんなに使い勝手の良いカメラがあったなんて! それもリコーが出しているなんて!」と。
 富士フィルムという会社は歴史的に写真館や職業写真家が使ってきた中判大判カメラ文化が土台にあって、どうしても発想が肖像写真的、風景写真的なものから出発してしまうらしい。ぼくのような使用者のことはかんがえていない。でも、おなじ世代であっても風景派のおじさんたちには優しくて、いまどきの若者にはなんのことかもわからないVelviaとかProviaとかAstiaなんかのフィルムモードをサービスしたりはするからイヤになります。
 で、GRDIIの不満足な点です。
① 起動が遅い。スナップシューターならいつでも電源は入れっぱなしにしておけ、というアドバイスはわかります。ぼくだってほんとうは首からぶら下げておきたい。でもスーツにネックストラップはちょっとばかり異様で、やや目立ち過ぎるのです。だからといってレンズを出したままスーツのポケットに入れるわけにはいかない。ぼくがいちばん警戒しなくてはならないのは「変なおじさん」に見られることです。アラーキーみたいに徹底的に変なおじさんだと相手もあきらめたり、覚悟を決めてくれるでしょうが、ぼくのような半端者にはとても冷たい。それと起動ボタンがすこし奥に引っ込みすぎているために、ポケットから取り出しながら手探りでONしたつもりが、うんともすんともいわないで、チャンスを逃してしまうことがままあります。個人的にはpanasonicのスライド式のON、OFFスイッチが速写用のカメラによりふさわしいとかんじます。
② 起動時の音が耳障りである。(撮ってはいけないはずの)飛行機の離着陸時にこっそり撮るとき、前後の席の人が気になる。この限定されたケースではぼくが社会悪的存在であることは認めますが、でもスナップシューターは多少なりともそういった野蛮なところがないと生きてゆけない。草むらから飛びかかろうとする豹が、獲物が通りかかる直前に歯ぎしりするような音はいただけない。
③ 手ぶれ補正機能がない。スナップは一瞬がすべてだということは釈迦に説法でしょう。ただ半端者のぼくとしては被写体によっては怖くて腕が震えることもあるから、できればぼくの腕をしっかり支えていて欲しいのです。
④ 0コンマ数秒だけれどもレリーズラグが気になる。これは一眼レフではないことを承知しながら無理をいいますが、でも夏にはオリンパスのマイクロフォーサーズも出てくるらしいし、がんばって欲しい。
⑤ Fnボタンが足りない。もうひとつ欲しい。
⑥ MYメニューも足りない。もうひとつ。
⑦ 消灯モードでも、撮影直後にディスプレイが点灯してしまう。撮影したときにもいっさい点灯しないようにしてほしい。インターバル撮影でも、結局ディスプレイが見えてしまえば警戒されます。ちょっとばかり中途半端なのです。
⑧ マルチAFがフォーカスポイントを選択するときの根拠がわからない。最短距離なら最短距離、人物なら人物を優先する、というようにはなっていない。すくなくともぼくの個体はなぜか左側にある被写体を選ぶ確率が高いし、選択した根拠が不明です。なんだか騙されているみたいで「そうかあ、マルチ商法のマルチかあ」なんていってみたくなってしまいます。じっさいちょっとひどすぎる。カメラ個体による不具合かもしれないけれども、それならば品質管理をがんばって欲しい。
⑨ 高感度での画質がだめ。ISO400からしてすでに不満。東京は地下道がおおくて、どうしても暗いシーンがおおいのです。まあこのあたりは発売して1年以上経つので仕方ないとはおもいますが。
 以上がぼくがかんじているGRDの数少ない不満点、というか贅沢な悩みです。もしかしたらぼくが知らない設定があったりするのかもしれませんが、悪しからず。あんなにちっちゃな体躯で、ここまでがんばっていること自体が脅威ですが、でも今後もしGRDIIIを出すのであれば、CX1のような新機能はありがたいとしても、GR1の時代からたゆみなくつづけてこられた基本性能のブラッシュアップの方により期待します。こんな地道なことをつづけているメーカーなんていまや他にありませんものね。
 それで、話を元にもどして、ぼくがいままでGRを敬遠していた理由ですが、じつは御社はぼくの経済活動の場における永年の競争相手なのです。1981年に日本のF社と米国のX社の合弁企業であるところのFX社に入社し、以来28年間、ぼくはオフィス機器の営業畑で御社やキャノンとの競争に明け暮れてきました。競争相手よりも自社製品の方が優れていると信じなければ、営業という職業はやっていられませんから、会社に対するロイヤリティーなんて微塵もないぼくでさえ、競争相手の製品には手を出せない心理的圧迫があります。会社側にではなく、ぼくのこころの底に溜まった苦いアクのようなものが、ぼくをその気にさせなかったのです。
 写真雑誌でGRのレビューを読んだり、撮影された写真を見たりするたびに、ぼくは唸りました。幸いキャノンはコンパクトカメラの領域ではぼくの興味を引くような製品はありませんでしたが、おなじく競争相手のミノルタはTC-1を一旦注文して、取り消したこともあります。
 デジタルになったGRのときも、おもに価格を理由に気持ちを断ち切りました。こんなに技術革新のスピードが速い世界でこの値段はないだろう、と。「リコーさん、オフィス機器であんなに値引かずに、カメラでもっと値引きなさいよ」といいたかったわけです。でも、たとえFX01とGRDがおなじ価格であっても、おそらくそのときのぼくは御社の製品は買わなかったような気がします。
 そんなぼくがGRDIIを買う気になった最大の理由は、御社の営業の方と個人的に親しくなったから(だとおもいます)。鬼畜とおもって殺し合っていたアメリカ人が、とても優しい人々とわかったときのような感動とでもいうのでしょうか。
 御社のEさんはパールハーバーでカストマーが主催したプレゼンテーション会の後、車のないぼくをレンタカーでホテルまで送り届けてくれた上、夜の合同夕食会までの中途半端な時間をいっしょにドライブしようと誘ってくれました。以前からぼくはEさんが良い人物であることをカストマーから聞いて知っていたので、朽ち果てた倉庫のような妙なところに攫われ、あげくに抹殺されてしまう、といった危惧はありませんでした。
 ぼくたちは一時的に停戦協定を結び、ホノルルから海岸線沿いにハナウマ・ベイのすこし先まで走りました。岸壁から海が見下ろせる展望ポイントがあって、車を降りてスーツ姿のまましばらく風に吹かれていました。波は勢いよく浜に打ち寄せていて、入り江になったあたりから地元の若者らしき数人のサーファーが沖に向かってパドリングしてゆきます。
 ぼくたちは無言のまま彼らの光る背中を見つめつづけました。やがてじゅうぶん沖に出たひとりが立ち上がって、見事なバランスで波に乗ったのです。それは見ているこちらの胸がすくような鮮やかさでした。ぼくはため息とともにEさんを振り向いた。彼はぼくの顔を見て、微笑み返し、また海に目をもどした。ぼくたちはノルマンディーでもなく、ガダルカナルでもなく、硫黄島でもない美しい海原を眺めながら、そのときお互いをとてもよく理解していたとおもいます。つまり、ほんとうはぼくたちには、ちがいなんてなくて、まるでおんなじなんだ、ということを。
「親しくなった」といっても、じつはこの程度のことなのです。もちろん翌日には戦闘は再開されました。でも「この程度のこと」が、ながらく競合メーカーの製品を気分的に排除していたぼくのこころを開かせたような気がするのです。じっさい、他には御社の製品を買う気になった理由が見当たりませんし、あいかわらずキャノンの一眼レフについては良いことはわかっていてもほとんど敵対視しています。
 で、じつはそのあと、いちどだけEさんに電話をかけました。
「あのー、GRDII、そちらの社販で安く買えませんか?」
 どうしても安く買いたいというわけではないのですが、営業の世界にながいと、つい原価や流通コストを差し引いた(かなり安い)価格のことをおもってしまうのものなのです。Eさんは「なぜかヨドバシとかビックの方が安いんですよねえ」と答えて、ぼくは以前自社の社販で買ったFinePixF30の価格をおもって納得しました。
 というような、ながながしい個人的事情は、ぼくが記したGRDIIについての感想とは、ひとまず関係のないところにあります。でも物に対する愛着はどうしたって人の記憶に直結しているから、やっぱり甘口の評価になっちゃったかもしれません。アレで甘口かよ、とおっしゃられるかもしれませんが、良いと信じているから、さらに良い物を作ってほしいからこその発言です。放言お赦しください。
 お互い、このどん底の景気のなか、なんとかがんばって生き抜いてゆきましょう。ご健闘を祈ります!
 with GRDII 2009/3/20撮影 京浜急行
# by bbbesdur | 2009-03-22 16:11 | camera

暗雲の到来

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 春、那覇から羽田へ向かう窓の外に見えているのは空と海と雲ばかり。冬には稀に南風が吹くことがあって、そんなとき飛行機は南に向かって離陸するから、左側の座席に坐れば、かなりの低空で沖縄本島の東海岸をつぶさに見ることができる。昼間だったら辺野古沖に目を凝らせば、ジュゴンが見えるかもしれないし(?!?!?!?!?!)、 夜のフライトだったら沿岸に広がる菊畑の照明がとっても美しい(100%保証!)。着陸前の最後のおまけに雪を頂いた富士山も見える。
 でも春は空気も霞んでいるし、航路も大半は太平洋上だから、島や陸の影を見ることはない。それでもぼくはぜったいに窓際の席を予約して、空や海や雲を眺める。ほとんどずっと窓の外を見ていて、沖縄でのことをおもいだしたり、東京へもどってからのことをおもう。明るいことも、暗いこともある。それが人生だ、なんていって自分を慰めるには、いま雲は厚く黒く垂れ込め過ぎているし、青い空や白い雲を眺めていると気分が晴れ晴れとしてくる、なんていう自分への嘘にはもう騙されない年齢になってしまった。身辺にとびっきり分厚い暗雲が立ちこめているこのごろ、ぼくにできるのは、暗雲こそは最高のシャッターチャンスであることをおもいだすことのほかにない。
 with Nikon F6 AF-S VR ED24-120 Velvia 2005/5撮影 那覇
# by bbbesdur | 2009-03-21 23:29 | okinawa

灯台下暗し

灯台下暗し_a0113732_2244103.jpg
 
 沖縄に咲いている赤い花をぼくの愛用カメラで撮ると、まずはたいがい色飽和を起こしてしまい、花弁のニュアンスが消えてしまう。沖縄の県花デイゴやこの写真の火炎木はその代表格。
 おじさんたちが見上げているのは那覇市役所に絡まるピンクのブーゲンビリアなのだが、火炎木の花はその名のとおり上に向かって咲くから葉に隠れてしまいがちで、ちょっと離れればこんなに目立つというのに真下を通る人はなかなか気づかないのである。
 with GRDII 2009/3/19撮影 那覇市役所前
# by bbbesdur | 2009-03-20 22:47 | okinawa