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 観測史上初の2月の夏日ということだ。史上初であっても、なくても、2月の夏日はすごい。いつもの年とおなじようにやればいいんだろう、とのんべんだらりと過ごしている怠惰な春を奇襲し、あっという間に季節を制した夏に喝采を送りたい。
 with DMC-FX01 2006/7/25撮影
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# by bbbesdur | 2009-02-15 00:27 | around tokyo

春という事件

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 朝、天気予報で春一番が吹くと知った。昼前から風が強まるので、飛んでくる看板などに気をつけるように、という。色とりどりの看板が紙吹雪のように都心の空に舞っている光景を想って、ぼくは晴れやかな気分になった。通勤電車の窓から見える裸の桜並木は薄日を受けて静かになにかを待っていた。ラッシュアワーの車内さえも静寂な空気に包まれていて、通勤者たちは混雑を許容しているように見えた。
 昼になっても風はやってこなかった。ランチタイムに外に出て看板を見上げるぼくは、すこしばかり恨めしげな目つきをしていたはずだ。
 仕事が終わったのは夜の10時過ぎだった。ひと気の絶えた夜の金曜日のオフィスは息を止めた獣のようにおとなしく、どことなく偽善的だ。ぼくは真実を捜すように9階の窓から外を見下ろした。葉を落としたプラタナスは、夜に根を下ろしたいびつな鉄塔のようだった。それでもあきらめきれず、ぼくは地表を覗きこんで、うごく物を捜した。すると、正面のビルのロビーにちいさな人形のような人影がうごいて、するすると外に出てきた。そのときだ、真っ白い花のようなスカートがふわりと闇に咲いたのは。
 帰り道、いい気になったぼくを待っていたのは、吹き荒れる春の嵐だった。傘がなかったのだ。
 with FinePix F30 2009/2/13撮影
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# by bbbesdur | 2009-02-14 07:17 | around tokyo

夕暮の肉食獣

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 ぼくの目の前でひとりの女が泣いている。電車は東京の郊外を西に向かってひた走る。一日の終わりのくたびれた夕暮れのなかを終着駅に向かって。
 コートのポケットのなかでカメラを握りしめたぼくの右手は汗を掻き始めている。 
 女は静かに泣きつづける。声をたてずに、満員でもなく、すいてもいない、どことなく中途半端な空気に満たされた通勤電車のなかで。
 また一筋の泪が落ちてきて、女の頬が蛍光灯の青白い光を呑みこんだ。
 ぼくはコートのなかのカメラを握りしめる。女が隙を見せた瞬間を切り撮ろうとしているのだ。その行為は残忍だ。けれどもぼくはすべてのカメラマンが肉食獣であることを知っている。ぼくがそうであるように。
 獲物の前に立ちはだかる肉食獣にも、いちぶのこころはある。微かな痛みが指先を痺れさせる。汗を掻かせる。いまぼくのコートの右ポケットはそれ自体がカイロのように発熱している。
 問題は女が目を伏せたりせずに、真っ直ぐ正面を向いていることなのだ。ぼくのからだを突き抜けた向こう側にある、女にしか見えない光景をじっと見つめていることなのだ。
 with E-410 14-42/3.5-5.6  2007/12/31撮影
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# by bbbesdur | 2009-02-13 00:46 | around tokyo