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水仙とシジミ汁

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「水仙」という太宰治の短編に、シジミ汁の貝肉を食べるのはあさましい、と男の主人公が若く美しい女性画家に軽蔑される場面があった。印象的なエピソードをつないで物語を進行させる太宰らしい構成の短編だが、ラストシーンにいきなりでてくる水仙の画(女性画家を投影しているとおもわれる)よりもシジミのエピソードの方が、いまとなってははるかに強く記憶に残っている。水仙の方は創作で、シジミは太宰の実体験だから、じゃないかなあ。
 太宰にハマっていた学生の当時、ぼくには小説を実学的に読むわるい癖があって、作家が書くことをそのまま鵜呑みにしていた。だからその小説を読んで以来、ぼくはシジミ汁が出たときでも、シジミの肉を食べなくなった。でもいまだにわからないのです。しじみの肉を食べない理由が。もともと貝は雑菌の巣みたいなものだ。シジミは淡水に棲む貝だから、さらに衛生上好ましくないだろうことはわかる。でも、もうすでに煮汁を吸ってしまっている人が、そのお椀の底にのこった肉を食べたところで、いまさらどうなるわけでもないともおもう。
 太宰は自身を「津軽から出てきた田舎者」と規定していて、それがために猛烈な東京コンプレックスと闘うことになった。シジミの話はまさしくその核心的なエピソードなのだが、いまどきは地方の方が食材はずっと安くて新鮮なのだから、地方の人が食べているなら、いまさらながらではあるけれども、ぼくもそれを真似たいとおもうんだけど、どうなのかな?(RICOH GR blog トラックバック企画 ほんわかに参加しています)
 with GRDII 2009/4/5撮影 自宅付近
# by bbbesdur | 2009-04-12 19:29 | flower

浮気の実態

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「桃子ちゃん、ごめん、ごめん、遅くなっちゃって。仕事が忙しくてさあ」
「あなた、毎年おなじこというけど、ほんとうはだれか別な人と会ってたんじゃないの?」
「別な人?」
「そう、わたしじゃない、だれか美しい人よ」
「君より美しい人なんて、いるはずないわけさー」
「都合がわるくなると、変なウチナーグチで逃げるんだから」
「誓っていうよ。ほんとうに別なヒトとは会ってない」
「じゃあ、信じるわ。早く抱いてよ」
「痩せたかい?」
「変わらないわよ」
 さくらを見つづけていたぼくの目に、桃子のからだはとてもほっそりと見えたのだった。
# by bbbesdur | 2009-04-12 00:04 | flower

Cherry Moment  <DAY 7 さようなら >_a0113732_23442988.jpg

 わかっているよ、君の気持ちは。富士山もいってたけど、昨日の雲隠れの一件だって、本心じゃないことはわかってる(通夜のときの写真みたいに使ってしまって、富士山ちょっと怒ってたけど、さくらさんのためなら、しかたない、っていってた)。
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 別れなくてはならない理由はいろいろあるけど、なによりも、やっぱり人間と植物の恋は許されないことだとおもう。「そんなことないわ!」って君はいうだろう。でも、じっさい世の中にはやってはいけないこともある。あの晩、人目を忍んで君を抱きしめたぼくは、君のからだの意外な暖かさに驚いたものだった。ひょっとしたら、この恋は成立するかもしれない、とさえおもった。ぼくはたまたま人間という生物に生まれてきて、君たち植物とはまったくちがった生をおくっているように見えるけど、じつはあんまり変わらないんだなともおもった。生のために、生がある、とでもいうのかな、その点ではなんにもちがわない。子孫を残そうと、ひっちゃきになるところもぜんぜん変わらない。こっそり隠れてするぼくたちより、白昼堂々とやってる君たちのほうが、すこしばかり派手だとしても。
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 でもかんがえたんだ。まあ、もしやれというなら、ぼくだってこっそりではなく、昼の日中に君を抱くこともできる。でも歩く桜ができちゃったらこまるだろう。人間だってどこでお花見をしようかと、春になったらまずは桜の行方を探すことから始めないとならなくなるし、だいいちぼくらの間にできるだろう桜子がかわいそうだ。
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 小学校に行くようになって「ねえ、お母さん、お父さん、わたしどっちにいればいいの?」って問われたら、君はなんと答える? 君は「校庭の端に立っているのよ」と答えるだろうし、ぼくは「教室のなかにいなさい」と答えるだろう。
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 そんなしかめっ面するなよ。美しい顔が台無しじゃないか。
 えっ、なんだって?
 わかったよ、きっとそうする、いや約束する。君の脇を通りすがったときに、きっと挨拶をする。「おはよう」という、「元気かい?」と声をかける。「きれいだよ」と囁く。たしかにこれまでぼくが勝手で都合が良すぎたことは認める。花を咲かせたときだけ「いやー、美しい」とか「やっぱり日本人は桜だ」とか「いっしょに呑もうよ」とか、いわない。「あれ、こんなところにいたんだ」なんてことにならないようにする。春が過ぎて新緑になったときも、夏の盛りに君が蝉につきまとわれているときも、秋になってまだらに紅葉するときも、冬、ひときわ寂しく君が立っているときも、これからはぜったいに無視したりしない。君を見つづける。約束する。それは信じてくれていい。
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 なあ、もう、泣くなよ。別れ際の潔さを日本人に教えてくれたのは、君だったじゃないか。
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 最後にぼくの一番好きな君の写真を載せる。きっとこれからも毎日君を見ている。また来年、会おうね。さようなら。
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with GRDII 2009/4/10 撮影 錦帯橋、東和町、2009/4/5 撮影 自宅付近
# by bbbesdur | 2009-04-11 00:10 | series