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#753 Montana Brothers Rodworks


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昨日、モンタナから1本のロッドが届いた。フライフィッシャーであるならば、自分が好きな釣り場、釣り方にマッチした、究極の1本に憧れない人はいないと思う。このロッドはそんな憧れを抱いた釣り人ふたりが、自分たちの夢を具現化しようとして10年以上試行錯誤して完成させたロッドだ。9'00" #4wtでロッドアクションは、いかにも日本のベテラン・フライフィッシャーが好みそうなスローアクションである。グラファイト・ロッドとは思えないアクションの詳細については、次回紹介することにして、今回はまずメーカーの紹介をしたい。 

Montana Brothers Rodworksは双子兄弟によるロッドメーカーである。ふたりの名前はDoug & Dan Daufelといい、生まれはオハイオ、現在はふたりともモンタナ州ボーズマンに住んでいる。生まれた順はDanの方が数分早かったらしいが、私が知り合ったのはDougの方が早かった。初めてDougに会ったのはウエスト・イエローストーンのバーでのことだった。甘いマスクの2枚目で当時はまだ独身だったから、カウンターの中の女の子に惚れられていた(私にはそう見えた。トーゼン、嫉妬した)。それから毎年イエローストーンで一緒に釣りをするようになって、やがてお兄さんのDanとも親しくなった。

イエローストーン周辺、ことにヘンリーズフォークには、毎年、名うての名人が世界中から集まってくるが、地元でフィッシングガイドをしていたり、ショップを経営していたり、ライターだったりする、本当の意味でのプロフェッショナル、たとえばクレイグ・マシューズやジョン・ジュラシックやマイク・ローソンやレネ・ハロップ、(日本で言えば、佐藤成史さんや渋谷直人さん)たちを除けば、私が知っているどの釣り人よりも釣りが巧い。釣りの巧さにもいろいろとタイプがある。ニンフでもストリーマーでも、ともかくありとあらゆる手段を使って、多くの魚を釣り上げる人もいるし、ドライしかやらない達人もいるし、ニンフ名人もいる。Doug & Dan兄弟はといえば、ストレートど真ん中、変化球なしのマッチ・ザ・ハッチ正統派である。というのも、大学在学中の4年間の夏休みはブルー・リボン・フライズでアルバイトをしていて、ジョン・ジュラシックとクレイグ・マシューズの薫陶を受けつつ、店で売り物のフライを巻いていたのだ(20数年前のその当時、わたしはアメリカで暮らしていて、夏と秋に2回行っていたイエローストーンではブルーリボンを拠点にしていたから、きっと会っているはずだが、思い出せない。たぶん地下で延々とフライを巻き続けていたんだと思う)。だから今でも、彼らのフライはいかにもブルーリボンっぽい、というかそのままだし、たとえばインプルーブド・スパークルダンなど、彼らが開発したフライパターンもある。販売用のフライを巻き続けた経験があるから、10個巻けば10個のクローンができあがる。10個巻くと10パターンかと見まごう私のフライの対極をいく精巧さである。キャスティングはジョン・ジュラシックをメンターとしていて、美しいループには溜め息を禁じ得ない。

 そんなふたりが長い間、理想としてきたロッドは、フェンウィックの伝説の「ワールド・クラス」だった。当時フェンウィックにはジム・グリーンとポール・ブラウンがいて、ワールドクラスのロッド設計はイエローストーンを愛して止まなかったポール・ブラウンが行った。イエローストーン周辺の川で釣ることを前提に設計したのがワールド・クラスなのである。しかしながら、クロート受けする、かなりクセのあるロッドで、一般受けはしなかった。だから製造本数が極端に少ない。中古市場でもほとんど見かけることはない(このあたりの経緯は昔からの友人で、かつてフェンウィックの社長だったVic Cutterから聞いた)。しかしながら(あるいは、だからこそ)この伝説のロッドのファンは多い。ブルーリボンのジョン・ジュラシックの愛用ロッドでもある。

→つづく


# by bbbesdur | 2021-11-05 18:50 | flyfishing

#752 Aimi Kobayashiへの言葉


ショパンコンクールの結果は報道されているとおりだ。発表はライブで観た。優勝したBruce Liuの挨拶に心打たれた。自分が感じているとおりのことを素直に語り、余計なことを語らなかった。というか、そういう性格なんだと思った。発表前に演奏を聞くことができなかったから、優勝が決まってから聞いた。やっぱり演奏って、人柄が出る。迷うことなくストレート、ど真ん中の剛速球を投げていた。聴衆もたぶん審査員も熱狂していた。たぶん協奏曲って、そういうものなんだ。名前と人柄からの連想で、性別は違うけど、なんとなくトゥーランドットのリューを思い出した。

Liuを聞き終わってからAimi Kobayashiを聞いて泣いた。今回のコンクールで私はKobayashiに対して非理解者でありつづけたけれども、最後のコンチェルトで彼女の戦略がわかった。Kobayashiさん、あなた、ほんとうに手が小さいんだね、だから、ああいった方向に音楽を持って行くんだね、気付かなかったぼくが悪かった、許してくれ。なんでそんなシンプルな事実を見逃していたんだろう。Miyu Shindoが弾いている時には、指の長さと手の大きさが日本女性離れしているということに気付いていたというのに。今回コンチェルトでステージに上がったとき、あなたがかなり小柄な人だということに初めて気付き、弾き始めて、あっ、と息を呑んだ。こんなに手が小さいのにあれだけの音楽を弾いてきたんだ、ということがわかったとき、あなたの音楽人生の核心部に触れたような気がした。コンチェルトの弱音域での音量を極端なまでに下げて、そしてほとんど音楽が止まったんじゃないかと思うほどテンポを落とすのは、オーケストラに音を出させないようにするためなんだよね。それは手が小さくて、体重もないあなたの決死の戦略なんだ。戦略というと聞こえが悪いかもしれないけれど、それはたぶん小さい頃からピアノを弾いてきたあなたの生き方そのものなんじゃないだろうか。ラフマニノフのように巨大な手を夢見ながら、小柄なまま成長していく自分に絶望したこともあるんじゃないだろうか。けれども決して負けずに自分なりの方法を模索して、結果的に音楽の奥の奥を探るような、極めて日本的なKobayashi Worldとでも言うべき独自の音楽に行き着いたんだね。やっぱり音楽って、人の人生そのものだ。聞く方はそんなことを知りもせず、考えもせず、ビール片手にパソコンでコンクールを観て、「ダメだな、この人」とか勝手なことを言っている。そんなことを思いながら聞いていたら、もう涙が止まらなくなった。

音楽を聞いている途中から著しく感傷的になっていたわたしには、ファイナルのKobayashiのコンチェルトは客観的に聞くなんてことはできなかった。Kobayashiさん、4位だよ、スゴいじゃないか、きっと夢はもっと大きかったんだと思うけど、ほんとうによく頑張ったと思う。辛く長い戦いだったろうけど、お疲れさまでした。大丈夫だよ、あなたの人生そのものであるKobayashi Worldはついに世界に認められたんだ。あなたの時代はこれから始まる。


# by bbbesdur | 2021-10-21 18:51 | music

#751 ショパンコンクール ファイナル2日目_a0113732_21544167.jpg


 3次予選までの演奏を聞いてきた限り、Soritaの最大のライバルと思われたAlexander Gadjievだが、どうしたんだろう、いつもの調子が出ていない。出てきたときからいつもの、ふてぶてしい顔つきとちがう。緊張しているような、集中できていないような、やはりコンクールの怖さってあると思った。とてつもない才能があることだけは間違いなく、それは出てくる音楽を聞けばわかる。でも、ミスが多すぎる。どこかしら仕組まれた八百長のようにさえ聞こえるほどだ。音楽の波に乗り損なって、何とか普段の自分を取り戻そうという必死さが伝わってくる。なんとかしようとするあまり、ダイナミックレンジが唐突に大きな方へ振れて、やや乱暴に聞こえる。オーケストラと合わせる方へまるで気が回っていない(まあ、曲が求めてないことも事実だけど)。相変わらず、音は素晴らしい。カワイの音はややゴージャスすぎると思うけれども、間違いなく参加者中で一番美しい音を出していると思う。

 しかしそれにしても改めてこのコンチェルト2番ってイージーリスニングの先鞭を付けた退屈な曲だと思った。オーケストラをピアノの伴奏に使っているだけで、どこにも飛躍や驚きがない。せっかくショパンを好きになりかけたのに、好きじゃない理由を思い出してしまった。それにしても、なぜGadjiev1番を選ばなかったんだろうか。大半の演奏者が1番を選ぶことはわかっているから、あえて目先を逸らす作戦だったのか? うーん、密かに応援してただけに、ちょっと残念。ついでにその次のMartin Garcia Garciaも聞いたけども、まあフツー。GadjievSoritaとは格が違う。

追記)最後のEva Gevorgyanも聞いた。音もキレイだし、よく弾いてるけど、まあ、フツー。やっぱりコンチェルトだと音量がどうしても重要になるが、力強さが足りない。ミスも目立つ。あとは音楽のどこにも驚きがない。あー、つくづく進藤実優のコンチェルトが聞きたかった。


# by bbbesdur | 2021-10-20 21:56 | music