2009年 11月 17日
#231 雨の夜
つい今しがたのことだ。宿の入り口に三人の親子連れがいて、ゴミ捨て場で空き缶を拾い集めていた。ボランティアの清掃ではない。ボランティアはあんなに暗い目をしていない。真夜中に空き缶を収集しない。
ぼくは彼らの背中にカメラを向けることができなかった。
エレベーターに乗ったぼくは部屋の前までやってきて、ようやく後ろを振り向くことができた。もちろん7階の通路にはだれもいない空間があるだけだった。だからぼくはカメラを向けることができた。
いまぼくは部屋にいて、この文章を書いていて、大粒の雨がバルコニーを叩く音が聞こえている。
ぼくは雨に打たれる彼らをおもっている。
ぼくと彼らは夜の闇を隔てて断絶している。彼らは憐れんでもらいたくないだろうし、ぼくも憐れみたくはない。
だからぼくはただじっと夜の雨の音を聴く。
それなのに気がつくと、ぼくのこころは飢えた肉食獣のように、夜のなかに潜む悲しみを嗅ぎ当てようとし始める。家族を不幸と決めつけて、悲しみたがっているのだ。雨の夜が悲劇を連想させるのはなぜだ。ただ夜に雨が降っていて、そこに空き缶拾いの家族がいるだけなのに。
with D700 Sigma DG HSM 50mm/1.4