2009年 04月 18日
花の蝶々
マレーシアにハナカマキリという蘭にそっくりのカマキリがいる。ずいぶん昔に昆虫写真家の海野和男さんの写真集で知った。肉厚で透明な薄紫色の肢体が枝に静止していて、ほんとうに蘭が咲いているように見える。密を吸いにやってきた虫はきっと「咲いている花がなんでいきなり蕾になっちゃうんだよー!」とおどろいている間にガブリと食われてしまう。美しい花に化けた殺し屋というのはいかにも残忍で血も泪もなさそうで素敵だ。
もともと生物の美しさのなかには残忍さが潜んでいるはずで(生物の美しさはいつでも生殖や生存を目指し、競争相手を蹴落とすためのものだから)、その究極がハナカマキリであるなら、ぼくはこういう相手なら食われてもいいかな、とさえおもうのだ。もちろんカマキリは美しい人間の女性の姿をしていてもらわなくては困る。カマキリに食われるのは映画のエイリアンみたいで怖すぎていやだ。
それにしてもカマキリの雄のように、生殖活動直後に美しい雌に食われてしまうなんて、ああ、なんと残酷で美しい夢だろう!
そう、そう、朝から阿呆のように夢想していてわすれそうになったけど、写真はハナミズキでした。虫が花に化けているんじゃなくて、花が虫に化けているように見えないかな? あんなにたくさんの蝶々が集まっているのだから、さぞかし甘い蜜が溢れているんだろう、と虫を騙すために。じっさいピンク色のは花じゃなくて総苞片(そうほうへん)で、例によって樹木の虫寄せのための色彩戦略。ほんとうの花は総苞片のなかに密集して咲いているわけだけど、そんなこんなで、この世の中、なにひとつとして信じられないわけです。
with NIKON D700 SIGMA 50mm F1.4 EX DG HSM 2009/4/18撮影 自宅付近