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瀬戸の花嫁

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 岩国から四国に渡るには、車で瀬戸内しまなみ街道を行くか、フェリーで行くかのどちらか。休日であればETCの1000円でしまなみ街道を行くというのが、手軽で賢い選択だとおもった。でもその日は金曜日だったし、もともとぼくの頭のどこかに「瀬戸内海は船で渡るものだ」というイメージが刷り込まれていて、今回もまた船で渡った。
 港には出発前の3時間前に着いてしまった。埠頭にはなにもなかったし、だれもいなかった。港の周辺を歩き回った。とても古い漁村で、道を行く人もいなかった。古びた塀の脇から痩せた猫が顔を出し、ゆっくりとぼくの前を横切っていった。とてもちいさな村で、ぼくはたちまち埠頭にもどってきてしまった。
 ひとけの絶えた待合室のベンチに坐って、ただぼんやりと船の到着を待った。バスがやってきたが、出てきたのは運転手だけだった。運転手はトイレに行って、もどってきて、自動販売機で飲み物を買った。ぼくはなにかがちがうような気がしていたが、それがなにかがわからなかった。ぼくも販売機で缶コーヒーを買った。そしてトイレに向かったとき、ふいに気がついた。運転手は女性だったのだ。そのとき、ぼくはどういうわけだか唐突に「瀬戸の花嫁」をおもいだしたのだ。

 瀬戸は日暮れて、夕波、小波
 あなたの島へお嫁に行くの
 若いとだれもが心配するけれど
 愛があるからだいじょうぶなの

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 愛があるからだいじょうぶ、か。そのかんがえが若いから、だれもが心配していたんだなあ、って、いまさらながらに気づいた。ぼくはなんだか急に落ちつかなくなって、暮れてゆく空の下をやってくるはずの船を探したが、あいかわらず海は静かで、埠頭にはだれもいなくて、一艘の漁船が揺れもせずに、ぷかりとそこに浮いているだけだった。
 with GRDII 2009/4/10撮影 伊保田港
by bbbesdur | 2009-04-15 07:51 | west japan