人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ふたつのトマト

ふたつのトマト_a0113732_8245388.jpg

 高知城下の日曜市で一個200円のトマトを買った。こんなに甘いトマトはほかに知らない。高知の畑で栽培されているこのトマトを知ったのは一年前のちょうどいまごろの松山だった。徳谷という地域でたった10軒前後の農家が栽培してる。なかでも7番畑のトマトがいちばん甘い、らしい。一個200円なのだからおいしくてあたりまえ、と呟きたくもなる。でも食べると頬が落ちて、価格に関するネガティブな気持ちもいっしょにゴクンと呑み込ませてしまうからずるい。
 きっと今年はほんとうの地元で採れたてのものを、と密かにおもいきめていた。というのも会社の後輩の実家が高知城下の日曜市で果実店を経営しているのを知ったからだ。後輩といっても昨年入社したばかりの新人で、とてもおっとりとした女性で、営業現場ではかなり苦しんでいる。たぶん毎日辞めたいとおもってる。ぼくがそうだったように。
ふたつのトマト_a0113732_8263028.jpg

 店には彼女の父親と祖母がいて、突然ぼくが会社の名前を名乗るとふたりともとてもおどろいた。ぼくはしばらく娘さんの様子を語って聞かせた。父親は目に泪を溜めた。ぼくはただ近況を報告しただけなのに、おばあちゃんはおろおろして泣いた。彼らにとって、東京で働いている娘とはそういう存在なのだ。ぼくは急にやってきたことを後悔して、娘さんには内緒にしておいてほしい、といった。そして200円の徳谷トマトを2個買った。父親はぼくに文旦を持たせようとしたがぼくは固辞した、そういうつもりできたわけじゃないから。ぼくが手を振ると、他のお客さんを相手にしていたおばあちゃんが彼らを振り切るように慌てて路地に出てきて、トマトをふたつ、ぼくに差し出した。ぼくはやむなく受け取って、ホテルにもどった。
 部屋にもどって洗面台に敷き詰めた氷の上にトマトを置いた。写真を撮っているうちに気がついた。このふたつはあのふたりの愛情なんだなあ、って。だからあんなに甘いんだなって。
 with GRDII 2009/4/12 高知市
by bbbesdur | 2009-04-14 08:27 | west japan