2009年 03月 15日
夕暮れの嘘
お城の公園にずいぶん艶っぽい姿の白猫がいて海を見ていた。雲がおおく、風が強い日のことで、海面はどす黒くなったり、輝いたりとすこしも落ち着くことがなかった。ぼくは手すりに近寄って、そんな海の光景を写真に撮ろうとした。海は一刻ごとに色を変え、光を変えてぼくを幻惑した。いくら撮っても撮り足らなかったし、いくら撮ってもおなじだった。
ようやくあきらめてうしろを振返ると、猫はぼくを見ていて、腰をすこし右にずらしてベンチを空けた。坐るつもりはなかったのだが、せっかく譲ってくれたのだからとおもって腰を下ろした。すると猫はとても嬉しそうに、気楽な様子でこちらに寄って来て、さもそれが自然なことのように、片手をぼくの太腿に置いた。おもわず猫を見たが、彼女はなにごともなかったように海を見ている。ぼくは猫の白い背中にそっと触れた。するととても気持ち良さそうに目を細め、さらに身を寄せてきたのだった。成行き上すぐに立ち上がって去って行ってしまうわけにもいかなかくなった。
そうやって彼女と戯れているうちに日が暮れてきた。ベンチを立ち去るとき、ぼくはとてもせつなくなった。「明日またくるよ」と嘘をついて、城を降りた。
with GRDII 2009/3/14撮影 唐津城