2021年 11月 05日
#753 Montana Brothers Rodworks

昨日、モンタナから1本のロッドが届いた。フライフィッシャーであるならば、自分が好きな釣り場、釣り方にマッチした、究極の1本に憧れない人はいないと思う。このロッドはそんな憧れを抱いた釣り人ふたりが、自分たちの夢を具現化しようとして10年以上試行錯誤して完成させたロッドだ。9'00" #4wtでロッドアクションは、いかにも日本のベテラン・フライフィッシャーが好みそうなスローアクションである。グラファイト・ロッドとは思えないアクションの詳細については、次回紹介することにして、今回はまずメーカーの紹介をしたい。
Montana Brothers Rodworksは双子兄弟によるロッドメーカーである。ふたりの名前はDoug & Dan Daufelといい、生まれはオハイオ、現在はふたりともモンタナ州ボーズマンに住んでいる。生まれた順はDanの方が数分早かったらしいが、私が知り合ったのはDougの方が早かった。初めてDougに会ったのはウエスト・イエローストーンのバーでのことだった。甘いマスクの2枚目で当時はまだ独身だったから、カウンターの中の女の子に惚れられていた(私にはそう見えた。トーゼン、嫉妬した)。それから毎年イエローストーンで一緒に釣りをするようになって、やがてお兄さんのDanとも親しくなった。
イエローストーン周辺、ことにヘンリーズフォークには、毎年、名うての名人が世界中から集まってくるが、地元でフィッシングガイドをしていたり、ショップを経営していたり、ライターだったりする、本当の意味でのプロフェッショナル、たとえばクレイグ・マシューズやジョン・ジュラシックやマイク・ローソンやレネ・ハロップ、(日本で言えば、佐藤成史さんや渋谷直人さん)たちを除けば、私が知っているどの釣り人よりも釣りが巧い。釣りの巧さにもいろいろとタイプがある。ニンフでもストリーマーでも、ともかくありとあらゆる手段を使って、多くの魚を釣り上げる人もいるし、ドライしかやらない達人もいるし、ニンフ名人もいる。Doug & Dan兄弟はといえば、ストレートど真ん中、変化球なしのマッチ・ザ・ハッチ正統派である。というのも、大学在学中の4年間の夏休みはブルー・リボン・フライズでアルバイトをしていて、ジョン・ジュラシックとクレイグ・マシューズの薫陶を受けつつ、店で売り物のフライを巻いていたのだ(20数年前のその当時、わたしはアメリカで暮らしていて、夏と秋に2回行っていたイエローストーンではブルーリボンを拠点にしていたから、きっと会っているはずだが、思い出せない。たぶん地下で延々とフライを巻き続けていたんだと思う)。だから今でも、彼らのフライはいかにもブルーリボンっぽい、というかそのままだし、たとえばインプルーブド・スパークルダンなど、彼らが開発したフライパターンもある。販売用のフライを巻き続けた経験があるから、10個巻けば10個のクローンができあがる。10個巻くと10パターンかと見まごう私のフライの対極をいく精巧さである。キャスティングはジョン・ジュラシックをメンターとしていて、美しいループには溜め息を禁じ得ない。
そんなふたりが長い間、理想としてきたロッドは、フェンウィックの伝説の「ワールド・クラス」だった。当時フェンウィックにはジム・グリーンとポール・ブラウンがいて、ワールドクラスのロッド設計はイエローストーンを愛して止まなかったポール・ブラウンが行った。イエローストーン周辺の川で釣ることを前提に設計したのがワールド・クラスなのである。しかしながら、クロート受けする、かなりクセのあるロッドで、一般受けはしなかった。だから製造本数が極端に少ない。中古市場でもほとんど見かけることはない(このあたりの経緯は昔からの友人で、かつてフェンウィックの社長だったVic Cutterから聞いた)。しかしながら(あるいは、だからこそ)この伝説のロッドのファンは多い。ブルーリボンのジョン・ジュラシックの愛用ロッドでもある。
→つづく






