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#752 Aimi Kobayashiへの言葉


ショパンコンクールの結果は報道されているとおりだ。発表はライブで観た。優勝したBruce Liuの挨拶に心打たれた。自分が感じているとおりのことを素直に語り、余計なことを語らなかった。というか、そういう性格なんだと思った。発表前に演奏を聞くことができなかったから、優勝が決まってから聞いた。やっぱり演奏って、人柄が出る。迷うことなくストレート、ど真ん中の剛速球を投げていた。聴衆もたぶん審査員も熱狂していた。たぶん協奏曲って、そういうものなんだ。名前と人柄からの連想で、性別は違うけど、なんとなくトゥーランドットのリューを思い出した。

Liuを聞き終わってからAimi Kobayashiを聞いて泣いた。今回のコンクールで私はKobayashiに対して非理解者でありつづけたけれども、最後のコンチェルトで彼女の戦略がわかった。Kobayashiさん、あなた、ほんとうに手が小さいんだね、だから、ああいった方向に音楽を持って行くんだね、気付かなかったぼくが悪かった、許してくれ。なんでそんなシンプルな事実を見逃していたんだろう。Miyu Shindoが弾いている時には、指の長さと手の大きさが日本女性離れしているということに気付いていたというのに。今回コンチェルトでステージに上がったとき、あなたがかなり小柄な人だということに初めて気付き、弾き始めて、あっ、と息を呑んだ。こんなに手が小さいのにあれだけの音楽を弾いてきたんだ、ということがわかったとき、あなたの音楽人生の核心部に触れたような気がした。コンチェルトの弱音域での音量を極端なまでに下げて、そしてほとんど音楽が止まったんじゃないかと思うほどテンポを落とすのは、オーケストラに音を出させないようにするためなんだよね。それは手が小さくて、体重もないあなたの決死の戦略なんだ。戦略というと聞こえが悪いかもしれないけれど、それはたぶん小さい頃からピアノを弾いてきたあなたの生き方そのものなんじゃないだろうか。ラフマニノフのように巨大な手を夢見ながら、小柄なまま成長していく自分に絶望したこともあるんじゃないだろうか。けれども決して負けずに自分なりの方法を模索して、結果的に音楽の奥の奥を探るような、極めて日本的なKobayashi Worldとでも言うべき独自の音楽に行き着いたんだね。やっぱり音楽って、人の人生そのものだ。聞く方はそんなことを知りもせず、考えもせず、ビール片手にパソコンでコンクールを観て、「ダメだな、この人」とか勝手なことを言っている。そんなことを思いながら聞いていたら、もう涙が止まらなくなった。

音楽を聞いている途中から著しく感傷的になっていたわたしには、ファイナルのKobayashiのコンチェルトは客観的に聞くなんてことはできなかった。Kobayashiさん、4位だよ、スゴいじゃないか、きっと夢はもっと大きかったんだと思うけど、ほんとうによく頑張ったと思う。辛く長い戦いだったろうけど、お疲れさまでした。大丈夫だよ、あなたの人生そのものであるKobayashi Worldはついに世界に認められたんだ。あなたの時代はこれから始まる。


by bbbesdur | 2021-10-21 18:51 | music