2021年 10月 11日
#744 ショパンコンクール その3
Hayato Sumino
・出だし、固い。そして、その固さが結局最後までつづいてしまった。
・音楽が小さい。外に広がっていかない。
・前回よりも曲に集中できていない。
・曲の世界に行けず、こちら側の世界に留まって、どこかしら足掻いている気配がある。簡単に言うと、曲に乗り切れていない。
・出てくる音はとてもキレイだと思う。
・このロンド、Kyohei Soritaと同じ選曲だったが、やっぱり難しい曲なんだと思う。明るい軽やかさを表現しなくてはならないんだろうが、どこかしら曲の中に明るい方一辺倒に行かないようにする、いやらしい要素が隠れていて、演奏家の邪魔をしているような感じだ。
・へ長のバラード。うーん、曲が嫌いだ。
・彼が弾きたい音楽の像は一歩先に見えているけれども、なぜか今日はそこに足を踏み入れることを、曲側から拒絶されている感じがあった。
・4曲すべてが長調という選曲は驚きだ。うーん、バラードとポロネーズの短調セクションが唯一ムーディーだが、やっぱり聴いていてやや飽きる。なんとなく彼って、こういう傾向の音楽が好きなんだろうなあ、って想像する。そんな明るい方に傾いた中での変ホのワルツの選曲はやり過ぎだったと思う。よほど個性的な演奏でないと評価されにくいはずだ。そしてその後に、あの誰でも知っている英雄ポロネーズ。なんだか名曲シリーズみたいになっちゃった。
・でもポロネーズの演奏はありがちなショパンから距離を置いていて、とても柔らかくて素敵だった。いやあ、これは良かった! きっとピアノを習い始めた頃からこの曲が大好きで、どうしてもショパンコンクールで弾きたかった、そして第2次予選に進んだことでついにその夢が叶った、という気がしてならなかった。ちょっと泣けた。でも、これでお別れかもしれない。当落の瀬戸際にいると思う。
Youtong Sun
・イ長のバラードの出だしから「おー!」という変わったアプローチで驚かされる。
・ほぼ丸一日、ショパンを聴きつづけたから、いい加減疲れて、Hayato Suminoが終わったら、風呂に入ってビールを飲もうと思っていたが、出だしを聴いて椅子に留まる気になった。
・いい。かなり好きだ。音楽にはこういう地平がないといけない。うーん、いい、とっても好きだ。
・たぶん保守系審査員には不評だろうなあ。でも、ショパンでもこの程度はやってもらわないと、いつまで経っても時代は変わらない。この演奏は叙情優先だとか、音符優先だとかのありがちな議論から、ちょっと離れたところある。
・音楽自体は極めて安定して前に進んでいく。どこかしら蒸気機関車を連想させる重厚な演奏だ。
・頻繁にミスがあって、かなり耳に付く。でも、こんなミスは音楽のウチだ、という、ふてぶてしさで乗り越えていくところがスゴい。なんだか萩本欽一がギャグでわざとミスっている感じ(爆)! じつは顔が似ている。
・この人のベートヴェンを聴いてみたい! ハッキリ言って、ショパンコンクールには向いてないけど、かなりの逸材だと思う。
Tomoharu Ushida
・出だし、あまり良くない。固い。音が濁ってる。
・でも、あっという間に持ち直した。徐々に自分の世界を広げている。
・技術的に安定していて、聴いていて不安がない。
・バラードとてもいい。左手と右手の差がなく明確に弾いているところが気持ちいい。でも、ダイナミックレンジが狭い。もっと音楽にダイナミズムを与えて世界を広げてほしい。
・だからかどうか、突き抜けた点や、おやっ、と言う点がない。あくまでもオーソドックスなショパンの演奏を目指しているところが物足りない。でも、審査員はこういった演奏は否定しないと思う。なんというか、超模範的なショパンなのだ。
・うーん、選曲を含めて、どこをどう聴いても中庸だ。日本のピアノ教育の文化と歴史がこの人の身体に息づいている。だから良くも悪くも突出できない。ここまでの音楽ができれば、日本の音楽界ではうまく生きていけるだろう。でもこの殻を破らない限り、世界的な活躍は難しいと思う。
・英雄ポロネーズも自然に流れていて悪くないが、テンポにその場限りの揺れがあるところが気になる。Hayato Suminoの解釈の方が好きだ。というか、こういう有名曲って、なんとか別な調理方法を考えてほしい。
・3次には残ると思う。というのは、落とす理由があまり見当たらないからだ。
・彼が汗を落としながら必死で弾いている姿を見ていると、名曲の効果もあって、なんだか泣けてきた。みんなほんとうに必死で頑張ってるよな。負けるな、ガンバレ!
Andrzej Wiercinski
・いいねえ、さすがのポーランド人。ヘ短調バラードの暗鬱さがポーランドの冬だ。行ったことないけど。結露した内窓から水滴が垂れ落ち、ガラスの向こうに葉を落とした街路樹が見えるような演奏だけど、でも、ちょっとミスが多すぎるかも。まあ地元の有利さを生かして聴かなかったことにしてもらえるだろう。
・スミマセン、真ん中の2曲の間、風呂入ってました。でも上がるなりすぐにビール飲んで、復帰しました。
・英雄ポロネーズもさすがのショパンの国という感じの、味わいのある演奏だ。それにしても、この人、ミス多過ぎ! ポーランド人じゃなかったら、3次は微妙なところだけど、地元の利があって通過するかも。それにしても、ちょっとねえ、ミスの数がねえ。
Yuchong Wu
・恣意的なテンポの揺れがあり過ぎて、あまり気持ちが良くない。
・音楽の流れを妨げるほどではないが、思いつきの「間」が至るところにあって(日本の演歌歌手のように)聞きづらい。ラン・ランのゴルドベルグを思い出した。
・でも中国人のピアニストって、個性的で日本人の演奏より、聴いていて楽しい。やっぱり国民性とか音楽文化の違いって大きいと思った。
・演奏の途中で、いつの間にかジャケットからシャツの襟が飛び出しちゃったのが素敵だ(もしかして初めから?)。あと、マイクに時々不思議な声が混ざってくるが、歌いながら演奏しているところがグールドみたいで嬉しい!
・でも、音楽って、自分の解釈を人に理解させるものではないと思うんだよね。聞こえていない音に自分が奏でる音をそっと載せて、風のように人の耳に運んで行くものだと思うんだ。だから恣意的な速度変化や音量変化って好きじゃない。それをやればやるほど音楽から離れていくと思う。
・変ホのポロネーズは同じ選曲のKyohei Soritaとは比較にならないほど解釈が浅い。テンポを遅くして、弱音にすれば、それらしくなるって甘く見ている。音楽はそういうものじゃない。まあまだかなり若そうだから、これからだ、頑張ってほしい。
・と言う点で、たぶん保守的な審査員とわたしの好みは、敵の敵は味方的な感じで一致するように思う。「これはショパンじゃない!」って息巻いている審査員が目に浮かぶ。しかしこのショパンコンクールの審査って、おそらくとんでもないほど政治的で、権威主義的で、派閥争いに明け暮れている怖ろしい世界なんだろうなあー。
これでお昼の部は終わりだけど、さすがに夜の部は明日の録画で観ることにする。で、いったいショパンコンクールっていつ終わるの? 1日8時間近くもショパンだけを聴いていると、いいかげん疲れてきたよ。でも演奏者が頑張っている限り、私も頑張る。