人気ブログランキング | 話題のタグを見る

#743 ショパンコンクール ステージ2

#743 ショパンコンクール ステージ2_a0113732_15021958.jpg

夏の終わりの痛々しい玉虫、そして玉虫色ではない感想


困った。ショパンコンクールのせいで仕事が手に着かなくなってしまった。Sコさんのせい(笑)! 昨日も『ザ・リトル・レッド・ブック・オブ・フライフィッシング』の発送でミスがあった(珍しくはないとしても)。新刊が一段落したところで次のプロジェクトへ進もうと思っていた矢先だっただけに、出鼻をくじかれた感じだ。

 昨日の記事で、最後の演奏者を聞いたと書いたが、あれは昼の部の最後だったらしい。夜、布団に入ってYouTubeを確認したら、もう次のセッションが始まっていた。昼と夜の2部構成であることも初めて知った。で、明日、録画を観ようと思いつつ部屋の照明を消して、iphoneでちょっぴり観てみた。ちょうどいい子守歌になるはずが、演奏者たちの気迫と緊張でまったく眠れなくなってしまった。さすがに暗い中でメモは取らなかったし、そもそもiphoneの音質で良し悪しがわかるはずもないと思った。でも、意外なことには、音が悪いからかえって分かる部分もあった。というのは最近のピアノは音がイイし、大きく鳴るから、何となく音でごまかされてしまう部分もあるのだ。

3人目まで聴いて、気になって仕方ないMiyu Shindo、そしてKyohei Soritaの順番まで聴こうかと思ったが、聴き終わると夜が明けそうだったから断念した。でも、それから後も緊張と興奮でまったく寝付くことができなかった。ならば迎え酒のように、迎えショパンをやろうとも思ったが、翌日のことを思って、七転八倒しながらようやく眠りに落ちたらしい。で、起きて、いまその続きを聴いている。

 しかしみんな変ロのスケルツォ好きだねえー。他にも課題曲あるのに。あの曲のドラマチック性って、どうもあざと過ぎて信用できないんだけど。あの曲がショパン的であるとすれば、だからわたしはショパンが好きじゃないんだと思う。


Shogo Sawada

・第1次の演奏よりも自由に弾いている感じが伝わってきて、気持ちが良かった。

・前回も書いたが、音楽を聞いている感が強い。

・前回「ダイナミックな部分でやや指が荒れる」と書いたが、これは今回も同じで、この点をわたしなりに考えた。たぶんこの人、音楽の流れを最優先してるんだと思う。ミスタッチを怖れると必ず音楽が萎縮する。でも誰もミスタッチをしたくないから、そのあたりをどこかで妥協しているはずだ。でもこの人はミスをしてもイイから、ともかく音楽を自然に流すことに全精力を注いでいる。

だいぶ以前に、小澤征爾が「オーケストラは多少荒れた方がイイ」と語っているのを聞いて、その意味が今ひとつよく理解できなかったが、つまり荒れるのがいいわけではなくて、オーケストラのそれぞれの奏者が音楽の流れを優先することによって、結果的に荒れるという意味だったのかもしれない。

3次選考リストに残ることができると思う。


Aristo Sham

(好きな点)

・あんまりないかも。

(好きじゃない点)

・曲に弾かされていて、曲を自分のものにしきれていない。だから個性が出ることがない。

・彼の音楽が立ち上がってこない。

・技術的にも問題がある。

・たぶんここまでだと思う。


Miyo Shindo

・この人に関しては、もうすでに私の中でエコヒイキが始まっているので、ここから先の感想は当てにならないかもしれない。

・なによりもこの人の音楽には、音にごまかしがない。驚くほどの最弱音を鳴らしながら、それでもなお一音一音をくっきりと立ち上げてくる。これはかなり驚いていいことだと思う。

・音楽は無音の中から立ち上がってくるものだが、無音というのは、音がないだけじゃなくて、時間が進みながら、しかし何も起こらない状態であることがわかった。時間は止まっているわけではなく、鳴らない音楽を内包しながら、静かに音を待っている。だからサーファーが波に乗るように、演奏者は聞こえない音楽の波に乗って、自分の指先から音を紡いでいく。この人にはその聞こえない音のうねりが聞こえている。聞いているうちに、わたしもいつの間にかその波に乗っていることに気付く。だから聞き終わったときに、彼女と一緒に短い時空への旅をした気になる。

・テーマが出てきたり、別なテーマに移るときに、息を呑むような瞬間がある。音色が変わる、というよりも音楽が変わったことがわかる。音楽の天使Aが羽ばたいて会場の天井に舞い上がり、唐突に目の前に音楽の天使Bが現れるような。その奇跡に思わず涙が零れる。YouTubeを観て、嗚咽したのは初めてだと思う。

・唯一わたしに理解できなかったのは、曲順かもしれない。きっと何かの意図があるんだと思う。

・もう、この人に関しては書くのを止めたいくらい好きだ。と言うか、教えられることが多すぎて、自分がこんな勝手な感想を言っているのが失礼に思えてならない。ショパンが好きになり始めている自分が不思議で仕方ない。

・徐々に会場の聴衆が弱音時に緊張してくる様子が伝わってくる。

・これはもうコンテストではなく、彼女の演奏会だ。

・この人が万が一、この演奏で先に進めないんだったら、ポゴレリチのときにアルゲリッチが審査員を辞めて帰っちゃったように、私も「この人、天才よ!」と言って、WEB審査を勝手に終了することをここに宣言する。アルゲリッチは自分の批評に自信があったからだが、わたしの場合、逆に自分の聴き方に自信がなくなったからだ。


by bbbesdur | 2021-10-10 15:17 | music