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#741 ノー・モア・ショパン

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ホッシー(記事の内容とはまるで関係ありません)

 今、ワルシャワでショパン国際ピアノコンクールが開催されている。ショパンコンクールといえば、私の世代だと中村紘子、内田光子、そしてポゴレリッチの落選を認めないアルゲリッチの審査員放棄事件を思い出すファンが多いと思う。私はショパンが好きではないので、今回もあまり気にしていなかったが、
釣りの友人で音楽好きなSコさんのfb投稿で興味が湧いて、いろいろと調べてみた。そもそも5年に1度というオリンピックやワールドカップ以上のインターバルということすら知らなかった。さらに18回の今回はコロナのせいで1年延期されての開催だそうだ。今どき、ショパン・コンクールの演奏をライブで観ることができるから世の中変わった。で、YouTubeで第1次予選を突破した8人の日本人の演奏をまとめて聴いてみた。残った40人中の8人だから2割が日本人ということになる。日本人の演奏家は粒ぞろいだが、個性に欠ける恨みがあって、このあたりまではたくさん残るが、きっとこの先は一気に減る。ファイナルの10人に2人残るかどうか楽しみだ。で、ドシロートの単なる音楽好きのわたしも参加してみたくなった。ピアノは弾いたことがない。だからトーゼン、技術的なことはまるっきりわからない。ただ、音楽を聴く立場というのは40年以上つづけているから、少なくとも好みはある。以下は第2次選考に残った日本人演奏者の演奏を聴いたときのメモと、極めて偏った主観的な好みの順位だ。

8位 Hayato Sumino

(好きな点)

・気迫は感じる

・右手と左手の分離感が好きだ

(好きじゃない点)

・フォルテ系の音が雑に聴こえる

・選曲がドラマチック系に偏っていて、やや退屈

・弱音による叙情的な部分に今ひとつ味わいがない。遅く、弱く弾いているだけに聴こえる。だからダイナミックであるにも関わらず、全体に平板に聴こえる


7位 AIMI KOBAYASHI

(好きな点)

・乱れがない。

(好きじゃない点)

・魂がこもっている気がしない

・左手がやや弱く、旋律を弾くときでもいまひとつインパクトがない

・一音一音の分離が良くない

・良くも悪くも日本の音楽教育の延長線上の音楽内に収まっていて、これから突き抜けていく感じがしない

・選曲のセンスがイマイチ→自分で選んだんじゃないかもしれないが、それも含めて日本っぽい


6 Tomoharu Ushida

(好きな点)

・音が澄んでいる。

・幻想曲にドラマはある

(好きじゃない点)

・「これがオレの音楽だっ!」ていう特徴がなく、ありがちなショパン像を追っているように聴こえる

・やはり日本の音楽教室の延長上にあるように聴こえる

・同じ幻想曲同士で比較すると、Yasuko Furumiの方がいい


5 Shogo Sawada

(好きな点)

・音楽を聴いている気がする。

・弱音でのテンポとニュアンスがイイ

・音の分離がいい

・高音の質が良い(ピアノのせい?)

(好きじゃない点)

・ダイナミックな部分でやや指が荒れる

・肝腎なところでミスタッチがある


4 Yasuko Furumi

(好きな点)

・弾く前の椅子の調整が執拗なところがいい

・曲の前の精神集中で次の曲のムードに持って行こうとしているところがわかるのも好きだ

・とても安定していて、安心して聴いていられる

(好きじゃない点)

・あまり悪いところがない

・たぶんすでにソリストとして活躍しているんじゃないかと思えるほど、できあがっている→そこが新人コンテストにふさわしくないとわたしは見る


3 Kyohei Sorita

(好きな点)

・日本のピアノ教育から解放された音楽が鳴っているように聴こえる

・音楽にドラマがある

・ダイナミック・レンジが広い

・自分の音楽というものが明確にわかる

(好きじゃない点)

・叙情的な部分がやや弱い

・やや一本調子だと思う

・音色の変化が今ひとつ

この8人の中で、わたしが名前を知っていた(ライブで聴いたことがある)唯一のピアニストで、きっと優勝候補の一角だろう。何年か前のこのblogにも書いたが、この人の演奏は、これまでの日本人と音楽感がまるっきり違うように聴こえる。簡単に言うとスケールが大きくて骨太だ。これまで、日本人のピアニストは技術的にまとまっていてはいるものの、個性に欠ける(自分の世界観がない)という弱点があって、いかにもそれは日本の国民性をそのままピアノに移したようなものだった。でもこの人は違う。新しい日本のクラシック音楽が見えてくる気がして、個人的には応援している。でも、音楽自体がわたしの好みかというと、そうでもない。


2 Shushi Kyomasu

(好きな点)

・ショパンらしくない

・独特な世界観がある

・音が柔らかく、音楽が包み込まれて提出されてくる

・柔らかいのに線が細くない

・ショパンのありがちな情熱を感じさせないのがいい

・ホ短調のスケルツォはどこかしらシューマンを聴いているような気がする

・左手、右手に関わらず、旋律の立ち上がり方が素晴らしく、いつでも旋律が明瞭に聴こえている

・高音部の音が澄んでいて、耳障りなところがない(ピアノ?)

(好きじゃない点)

・ダイナミックレンジがやや中間に集まっている

・だぶん、そもそもがショパン弾きじゃない。彼のバッハが聴いてみたい


1 Miyu Shindo

(好きな点)

・すぐにでもこの人のCDを買いたいという気になった(いまではCDを一切買ってないとしても)

・私が批評するなんて、おこがましいと思った

・緊張感を自分自身の音楽世界で包み込んで保護しているような気がした→自分の世界で演奏している

・音色がはっきりしている。

・やや日本人離れした、独自の音楽に聴こえる

・刻まれるリズムが正確で気持ちがいい

・鍵盤に乗りかかって弾くようなスタイルがグールドを連想させて、ひいきしたくなる

・音がキレイだ

・ニュアンスの変化が素晴らしい

・技術的にギリギリで弾いていない。余裕を感じる

・弾き方がまるで教科書的でない

・空中から音楽をつかみ出すように弾く

(好きじゃない点)

・あんまりない

 この人の音楽は素晴らしいけど、必ずしもショパン弾きではないと思った。だから好きなんだろうけど。他の作曲家のいろいろな曲を弾いて聴かせてほしい。まずはシューマンの『クライスレリアーナ』が聴きたい。


 以上がわたしの好みによる順位だけど、いったい何人の日本人がファイナルに残るのか。ファイナルでのコンチェルトとなると、やっぱり経験やら力強さからKyohei Soritaが優勝争いに絡んでくると思うが、Miyu Shindoのコンチェルトも是非聴いてみたい。しかしファイナルまでは2次予選、3次予選を通過しなくてはならない。人数は1次選考終了後の今は40人だが、2次で20人、3次で10人に絞られてファイナルが競われる。猛烈な緊張との戦いもコンクールの重要な要素だから、大番狂わせもあり得る。いやあ、ワクワクする、というか8人をまとめて4時間くらい集中して聴いたせいか、こちらにまで緊張が乗り移ってきた感があって、極めて疲れた。だから日本人だけ聴いて終わりにしようと思っていた。でもYouTubeをそのまま放っておいたら、たまたま別な演奏が始まってしまった。あれっ、と耳をそばだてるほど印象的な冒頭で、ちょっとだけ聴く気になったが、結局最後まで聴いた、というか聴かずにはいられなかった。AEXANDER GADJIEVという演奏者だった。この人の音楽、桁違いだと思う。なんだかついさっきまでのステージとは別次元の音楽が鳴っているように思えた。落ち着きぶりといい、音楽そのものといい、このピアニストはタダ者ではない。もしかするとこれから先のピアノ界を背負って立つ逸材ではないのか? ほんとに新人なのか!? 正直なところ、第1次を通過したどの日本人より「そこに音楽がある」と思った。日本人の初優勝に黄色信号が灯っているような気がしてならない。恐いから、もう他の演奏は聴かないことにしたが、しかし今回、ピアノ界のレベルがぐんと上がっていることがわかって驚いたし、ピアノそのものが、とてつもない高性能楽器になってきていることもまちがいない。


by bbbesdur | 2021-10-08 22:39 | music