2021年 09月 17日
#736 パタゴニアのテントはまだなのか?

これまでソロテントをどれだけ買ったか知れない。単価がバンブーロッドより、かなり安いから、ついついダマされる。そもそもソロテントの5万円を安く感じて、毎年買い換える感覚は我が家の実態経済と著しく乖離している。たぶんわたしはダマされやすい性格なのだ。「モノを手に入れるとそこに幸福がある」と思わせるのは経済という名の幻想だ。そうわかっていながら買いたくなる。山をテーマにした今回の記事だから、「なぜ買うのですか?」と問われれば「そこにモノがあるから」と答えたくなる。
これは『ライフ・イズ・フライフィッシング シーズン2』にも書いたことだが、多くのキャンパーが目指している方向は「快適さ」である。森や水辺に生息している蚊やらアブやら人間の身体を狙って飛び交う虫たちや、グリズリーやウルフが歩き回るアウトドアの中でも、なお人間は当たり前のように快適さを求める。「快適さへの道は、自宅につながっている」というのが、わたしの自説で、キャンパーは森の方向を向いて歩きながらも、日常という衣を脱ぎ捨てられないでいるのだ。もちろん本格的非日常(=死と隣り合わせ)を求める冒険家たちだけを相手にしていてはアウトドアメーカーが存続できるはずもないから、必然的にアウトドアメーカーもユーザーに寄り添うようにインドドアを目指し、結果的に収益の大半を日常使いのアパレルから得るという逆転現象が起こる。
わたしがパタゴニアを超愛用しているのは、もちろんダマされやすい性格をしているためでもあるが、やはりイヴォン・シュイナードという本物のアウトドアマンの存在が大きい。品質のバラツキはある。パタゴニアの製品だから、必ずしもベストというわけではない。しかし、ともかく筋が通っているのだ、あの企業は。総売上のパイチャートで、面積のない、単なる線程度のフライフィッシング関連商品は、企業経営を考えれば真っ先に切って捨てるべき分野だろうに、頑なに新製品を出し続ける、その姿勢を応援したくなる。もちろんシュイナードが生粋のフライフィッシャーということもあるだろう。それにしてもフツーの企業なら二の足を踏むような利益性と背反する環境問題、もしくは人権問題についての積極的過ぎる経営姿勢は素直にスゴいと感心するしかない。
というわけで、わたしはインドアではキャプリーンを着て、アウトドアではフリースを着るわけだが、今回、山に担いでいったテントはパタゴニア製ではなく、SEA TO SUMMIT製だ。パタゴニアのテントはまだ未登場である。もし発売される日がきたら、きっと次の日には買って、最初のレビューを書くだろう。経済にダマされ続けて、老い先に浮浪の生活が待っていたとしても、寝ているテントがパタゴニアであれば、死の床として納得もしよう。
ヘンリー・ソローの時代から、アウトドアは社会からの脱出先でありつづけた。60年代後半から70年代に掛けて、米国を中心に広がったアウトドア文化は本来あるべき反社会的方向に進んだが、このところインドアに急接近していて、もはやカウンターカルチャーとしてのアイコンとしては成立していない。経済は世界を変える魔人だ(つづく)。