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#719 パタゴニアの『ARTIFISHAL 』試写会の感想

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 ものすごく乱暴に一言で言うと「鮭(鱒)の放流を止めよう!」というメッセージの映画で、放流魚が天然魚に与えるネガティブ・インパクトで魚が小さく、少なくなるという事実が語られている。
 日本と米国はあまりに河川、海洋の文化、歴史、環境がちがいすぎて、この映画のメッセージをそのまま受け入れることはできないとは思う。
 映画を観てなによりも痛感したのは、鮭鱒を対象としたゲーム・フィッシングがもたらす日米における経済規模のちがいだ。米国ではゲームフィッシュビジネスが地域経済と強く結びついている。魚が少ないと釣り人がやってこないから、大量に放流するというのが、これまでの米国各州の定番のやり方だった(モンタナ州以外)。しかし今その方法を変えないと、結果的に魚は野生を失い、かつ減少してしまう。だから止めようという、かなりわかりやすいコンセプトである。このわかりやすいコンセプトに対して、地元の政治経済はもちろん例によって不明瞭な利害関係でがんじがらめになっているから、その壁を突破するのは簡単なことではないと予想できる。それでもそこに一石を投じるパタゴニアをわたしは個人的には支持する。つまり彼らの製品を買うと言うことだ。
 日本の大半の企業は自分たちの作ったモノ、あるいは提供するサービスを通して社会に貢献するというのが基本姿勢だ。お金と労力をかけて社会になんらかの問題提起をし、それを社会的、もしくは政治的な運動にしようする意思はない。商売への影響が怖くて、そんな余計なことはできないのだ。お上に逆らうことをタブーとしてきた日本の長々しい歴史と、王侯貴族が存在しない平等ベースで国を短期間で作ってきた(あるいは今も作っている)米国との、どうしようもない文化的なちがい、スピード感のちがいが、企業姿勢の根底にある。
 今回のパタゴニアの問題提起はわかりやすいから、消費者にとっては賛成反対の判断がしやすい。反対ならば、パタゴニアの製品を買わなければ良いのだから。あるいはレベルの低い企業は我田引水的な問題提起、もしくは協力要請をすることもあるだろう。コスト、手間、時間を削減したいホテルが連泊のゲストに、地球環境保全のために部屋の掃除とベッドメイキングをしなくても良いか? と尋ねるように。
 でも、パタゴニアがほんとうに期待しているのは、釣り人の運動への参加だろう。やっぱり陣頭指揮を執っているイヴォン・シュイナードは米国人なのだ。パタゴニアの総売上に占めるフライフィッシング商品の割合は1%前後だそうだ。そんな割の合わないビジネスに投資をつづける釣り人イヴォンを同じ釣り人として応援したいし、割の合わないビジネスに関係した問題について、投資を惜しまない姿勢には敬服するほかにない。マトモな国を作ることは国民の責任だと心の底から信じて疑っていないからこそ、こういう映画ができる。

 日本には日本の難しさがある。だから、そのあたりの現状を映画の後で佐藤成史さんの進行のもとに、パタゴニア・アンバサダーのディラン・トミネ、水産試験場の人、両毛漁協の人、紀伊半島を流れる200河川でDNAの調査をしている人、然別湖で1000人の釣り人に調査を行った人、高原川漁協の人などの発言を交えたトークの時間があった。
 漁協というのは「魚類の増殖が義務付けられている」という縛りの範囲内でしか活動できない。映画の後のパネルトークに参加されていた高原川漁協の人たちが「釣り人が放流を求めているからやっている」と言う現場感が印象的だった。もちろん釣り人から漁協に対しての別な意見もあるだろう。しかしいまだにキャッチ・アンド・イートが主流の日本の現場ではそれが現実なんだと思う。天然でも、養殖でもいいから、家に持って帰る魚が必要なのだ。然別湖で1000人の釣り人に調査を行った人の発言もあった。釣り人が数や大きさよりも、魚の野生さを重視する意識改革から始める必要がある、というような趣旨だった。理屈も気持ちもわかる。でも、いつだって、数、大きさ、野生さ、そのすべてを、もっともっと、と欲しているのが釣り人という存在なのだ。
 ゲーム・フィッシングのあり方があまりにちがいすぎる米国発の問題提起を「これは日本ではできないよー」と言ってしまうことは簡単だ。けれども「じゃあどうするの?」という問いに対して、明確な手段を示すことができる人、リーダーシップを取れる人は残念ながら日本にはいない。日本の釣り場の現状が理想的だと思ってる釣り人なんて、ひとりもいないのに、わたしたちは何もできない、あるいはしないでいる。
 たぶん一番ズルい方法は日本の釣りをあきらめて、放流をほぼ一切していないモンタナ州やイエローストーンに逃げ、天然100%の鱒を釣ることだ。やっぱ魚は天然に限るよね、と。パタゴニアの製品を買い、経済的に米国ローカルに貢献しながら、日本ではあきらめのため息をついている、それが今のわたしの偽らざる非国民的姿であるということが、映画を観てよくわかった。さあ、どうする?
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『ARTIFISHAL』は明日9/8パタゴニア福岡を皮切りに、9/12まで仙台で上映される。



by bbbesdur | 2019-09-07 11:09 | flyfishing