2017年 07月 09日
#695 時代はソリッド(SOLID OCTAGON RODについて)
SOLID OCTAGONというロッドメーカーが誕生した。ショップは渋谷駅から7、8分歩いたところにある。とっても素敵な店舗だ。あるいは素敵すぎて、扉を開けることを躊躇うふらい人さえいるかもしれない。しかし気楽に扉を開けて、オーナーに声を掛けてみるといい。非常に気さくでソフトな人物が目の前に現れるだろう。ぼくはこの人、丸山聰さんとは鱒やの橘利器さんから紹介されて以来10年近い付き合いがある。紹介されたその日に、当時は渋谷の109裏にあった工房に連れて行かれ、グラファイトのソリッド・ブロックを8角形に削り出して作ったというフライロッドを初めて手にした。グラファイトとは思えないしっかりとした重量感があった。
「中空ではないところが最大の武器なんです」
言うまでもなく、市場に出回るグラファイト・ロッドはほぼ100%金属のマンドリルにカーボン・シートを巻いて作られるため、結果的に中空構造となる。そんな圧倒的多数の中空軍団を敵に回し、丸山さんは自信を持った口調でそう言ったのだった。
削り出しの機械も自製だった。バンブーロッド・ビルダーで言えばライル・ディッカーソンみたいだと大いに感心した。じつは丸山さんは表参道にあるSORAという指輪メーカーの社長で、金属加工は本職なのだ。直径2センチにも満たない金属の加工と1メートルを超えるグラファイト加工が同じはずもなく、そこに丸山さんが費やした10年という気の長くなる歳月がある。出会った当時、いつの日かロッドメーカーとして自立したい、と語っていたが、その時のロッドの完成度から、正直なところこんなに長い年月が必要だとは思わなかった。10年近い年月はそのまま丸山さんのプロフェッショナルとしての矜持なのだ。こういうメーカーこそ信用できる。コンセプトが10年前とまったくブレていないのもスゴい。8角という形状に代表されるユニークなコンセプトを生かしつつ、キャスト性能や耐久性、信頼性を向上させるためにロッドの各要素をブラッシュアップしつづけたのだ。
バンブーロッドをメインに使うようになってからというもの、軽すぎるロッドを一日使うとぼくの肘は腱鞘炎気味になってしまう。OCTAGONにはバンブーロッドより少しだけ軽くした程度の適度な重量があって、反発したトルクでラインを運んでくれる。普段バンブーロッドを使っているけれども、たまにはグラファイト・ロッドも使いたいというふらい人にはうってつけのロッドだ。大概のバンブーロッドよりシャープなラインをキャストすることが出来るから試して欲しい。
すべての金属パーツが美しく、かつ素晴らしく機能する。なぜ8角なのかという点については是非ショップを訪れて、直接丸山さんに聞くと良いだろう。グリップまで8角なのだが、じつはかなり使い勝手が良かった。かつフェルールも8角だから、ロッドを繋ぐときに100%ガイドがストレートに並び、かつ釣っている最中に左右にズレることもない。グリップとフェルールはラウンド形状でなくてはならない、というのは既成事実に起因するぼくらの先入観だ。道具のデザインは服飾などのデザインとは違って、あくまでも新デザインに新機能が付随して初めて古い伝統と訣別出来るのである。
写真のロッドは24トン・カーボン(湖用、海用のロッドはそれぞれまた別な種類のカーボンを使っている)を使って開発された渓流用のロッドで、先週マジソンの激流に乗って下った15インチブラウンの抵抗に耐えた。本当は20インチ・ブラウンでバットの強度と粘りを試したかったんだけども、それはぼく側の問題で来年の宿題だ。
ところでブランク・カラーは屋内で見ると超ジャパニーズな渋い漆塗り風なのだが、モンタナの青空の下では写真の通り、なぜかスカーレット・レッドに変身してアメリカン・ビューティーになる。これは写真の現像のせいではなく、ぼくはこの大和撫子の変幻性を大いに気に入っている。このあたりに指輪メーカーとしての着色の秘密が隠れているように思える。