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#594 2人部屋

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 この研修所にこれまでいったい何度泊まっただろうか。どこか米国西海岸にある研究所をおもわせる外観はわるくない。問題は宿泊部屋。いまどきふたりで1部屋なんて、ほとんどセクハラじゃないか。しかも部屋の広さは狭いビジネスホテルのシングルルームなみで、ムリヤリふたつ並べたシングルベッドは腕を伸ばせば隣りに届く。
 今回もおなじ会社ながらも、まるで知らないおじさんと同室になった。悪い人じゃなさそうだったけど、でも人は見かけによらない。夜、いきなりその気になられて襲われないとも限らない。いまはそういう時代、男同士の2人部屋は危険である。研修中も、ずっと彼との夜のことが気になって、内容が頭に入らなかった。
 ところが、ランチタイムの食堂でたまたま別な研修でやってきていた沖縄営業所のモアイ仲間、モーリーとばったり会って、聞けば彼は幸運にも2人部屋にひとりきりで宿泊しているという。わたしが「以前からキミのことが気になっていたんだ、今晩いっしょに寝ていいかな?」と問うと、モーリーは「いいね、いいね」と答えた。わたしはすこしがっかりした。なぜって、モーリーが「いいね」を2回言うときは付き合いで仕方なく言っていることの表明で、3回言うと本気でいいねとおもっているらしいのだ。うちなーんちゅは、なにごとにおいてもシャイで、はっきりモノをいうことが苦手なのだ。
 夕飯を食べ、シャワーを浴びたわたしは、缶ビールと缶チュウハイとつまみを自動販売機で買って、いそいそとモーリーの部屋を訪れた。酒を渡すとモーリーは「いいね、いいね、いいね」といった。いったいぜんたい何缶の酒を飲んだか記憶にないが、寝たのは2時過ぎだったはずで、朝起きたら頭がガンガンかつ朦朧としていた。モーリーはカーテンの隙間から漏れた朝日を浴びて、首筋に汗を掻きつつ、ぐっすりと寝ていた。わたしは「昨晩は、愉しかったよ」とメモを残して部屋を出て、研修所の廊下を足音を忍ばせて部屋にもどった。なんだか不思議な朝帰りだなあとおもいつつ、こっそり鍵を回したときに毎度お馴染みの罪悪感が湧いてきたのがバカバカしかった。静かに扉を開けると、しかし部屋に同室のおじさんの姿はなかった。もしかすると彼もどこか別な部屋にお泊まりしたのかもしれなかった。そんなにわたしって怪しく見えたのかしら。
 with RX100 T研修所 2012/8
by bbbesdur | 2012-09-02 00:38 | around tokyo