人気ブログランキング | 話題のタグを見る

#515 ナイチャーの大和魂

#515 ナイチャーの大和魂_a0113732_0551113.jpg

 先週、彼は沖縄に行った。どんよりとしていて当たり前の沖縄の冬にしては晴れ過ぎて、南風さえ吹いた日がつづいた。身体が弛緩すると同時に、気も弛んだのか、久しぶりに風邪を引いた。悪いことに、週末はモアイ仲間の忘年会兼クリスマスパーティーだった。
 朝起きると彼は甲虫に変身していない代わりに、頭全体に鼻水が溜まったカバくらいにはなっていた。彼はYに電話した。
「とても残念だけど、鼻水が耳から溢れ出てくるから、欠席するよ。みんなに移すと悪いし」
「大げさなんだから。風邪くらいで飲み会を欠席するウチナーンチュなんていませんよ!」
 と、このごろ数度のマラソン完走で自信をつけたのか、奇妙に体育会女子になりつつあるYの強引な誘いに、
「おー、だったら大和魂を見せてやろうじゃないの」
 とせいぜい毎週1回,1時間ばかり近所を散歩する彼はムキになったのだった。
 夕方4時まで寝込んでいたのを、風呂に熱い湯を溜めて身体をぽかぽかにして、風邪薬を飲み、ユンケルも1000円のを奮発し、「いざ、ギノワン」とばかりに威勢良く部屋を出て、宿の駐車場でMの車を待った。途中でYたち3人拾ってくるから5時20分には着くという。湯冷めするとかえって良くない、そう彼は用心し、時間ギリギリまで部屋で粘って外に出た。
 前日までの南風はいったいぜんたいどこへ行ってしまったのか、いや、南風だからたぶん南に行っちゃったはずだが、それはともかく金曜日の那覇には雪さえ混じっているのではないか、と錯覚するほど猛烈な北風が吹いていて、暖まったはずの彼の身体はたちまち凍ってしまった。
 待てど暮らせど迎えの車は姿を現さず、そのときになって彼は相手がウチナーンチュであることをおもいだしたのだった。「ウチナータイムとは卑怯なり、ムサシ」と飛び交う燕を相手に剣を抜こうとおもったが、あいにく燕は不在で、鳩しかおらず、鳩は平和のシンボルだから基地反対ムードの盛り上がっている沖縄で切り捨てるわけにはいかない、と彼は冷静にそうおもった。
 1時間すこし遅れで迎えの車が到着したとき、彼はそのまま札幌に直送して雪祭りに飾ることができるほどの氷人間になっていた。全身の毛穴から噴き出した鼻水が結氷したのだった。Yはそんな彼を見て、
「ホント、カバみたいな鼻水ですね」
 と奇妙に冷静にいうのであった。
 車に入ると、Yはその日のホスト役である宜野湾のアメリカ人に1時間遅れる事実を「ほんのすこしだけ遅れるかも」と電話した。彼はとくに親米派ではないが、アメリカ人を気の毒だとおもった。
 宜野湾に住んでいるそのアメリカ人は、常々、宜野湾に普天間基地はないほうがいいといっている。もちろん反対集会には欠かさず出席する。普天間基地があるおかげで、58号線沿いにある職場へ行くのにエラく遠回りをしなくてはならないからだ。
「普天間基地をどこか他所に押しつけるより、自分が引っ越した方が良いとおもうな」
 と彼がそのアメリカ人に忠告したところ、
「そんなに簡単な問題ではない」
 と返された。彼はたった一軒の民家の引っ越しが簡単な問題ではないことを知り、沖縄基地問題がいかに複雑なのか理解できたような気がした。
 パーティー会場であるそのアメリカ人の家に着いたのは、約束の6時から1時間半以上経過した午後7時半過ぎのことだった。いやあ、路が混んでいて、まあ、まあ、とりあえず駆けつけ3杯くらいはいっちゃってください、とパーティーは唐突に開始され、ビンゴゲームやプレゼント交換で、かなり本格的に盛り上がっていったけれども、彼はといえば口を開くと鼻水が出るため、マスクの中央に穴を開けて通したストローで赤ワインを飲み、大和魂がどれほどのものかを、ウチナーンチュたちに誇らしげに顕示して溜飲を下げつつ、鼻水をすすり上げていたのである。
 with FujiFilm X10 2012/12 那覇
by bbbesdur | 2011-12-26 00:53 | okinawa