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#488 ニタミの怨念

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「ニタミ! ニタミ!」
 昨日、京急の羽田空港駅を下りたら、若い女性がそう叫んでいた。
「うっそー、ニタミー!」
 と、ぼくの前を歩いていた女性が振り向きざまにそう叫び、いきなりホームを反対方向へ(JAL側へ)駆けて行った。ふたりはぼくの目に、ツアー・コンダクターに見えた。この時期の添乗員なら、修学旅行の確率が高く、ぼくは彼女たちの慌てぶりに学生たちの前途を心配しつつも、果たして「ニタミ」とはなんだ? と悩むことになった。
「ねたみ」「そねみ」の類いではないことは、彼女たちの使い方で明らかだった。
 地下のATMで必要なお金を引き出し、2階にあるPAULでランチのパンを買い、検査場を通過して、ゲートまで歩きながら、ずっと「ニタミとはなにか?」をかんがえつづけた。
 広島空港に到着してレンタカーを借り、待ち合わせた同僚と駅前の飲み屋で生ビールをを飲みながらかんがえつづけた。同僚に訊いても、聞いたことがない、というから、がっかりだった。話は唐突に変わるけれども、ぼくはなぜか「プリティ・ウーマン」と「愛と青春の旅立ち」の主演男優の名を忘れることがあって、ときどき気になって仕方なくなることがある。そんなとき彼女に訊いても、おなじようにわすれていることがおおい。期待した方がいけなかった。ハリソン・フォードじゃなく、メル・ギブソンでもなく、顔ははっきり浮かぶのに、なぜ名が浮かんでこないのか。たぶん憶えにくい名前なのだ。しかし今回は「ニタミ」を先に解決しなくてはならないから、あの男優の名前は後回しだ。
 翌朝の今日、客先に向かいながら「ニタミ」はおいしいのだろうか? とかんがえた。ひょっとすると危険なのかもしれない、いや、あるいは案外気持ちが良かったりして。
 仕事も「ニタミ」のことがあるから、当然、スローにならざるをえなかった。
 夕方の便に乗って、羽田空港にもどってきた。着陸後バスでターミナルへ移動した。「同じ料金を支払いながら、飛行機だけでなくバスも乗れるのだからトクをした」とポジティブにかんがえる人と「オレは飛行機に乗りにきたんであって、バスに乗りにきたわけではない」とネガティブにかんがえる人を満載してバスは飛行場をのろのろと走った。もちろんぼくは後者タイプである。それもかなりラディカルに。空港内をバスで移動するくらいなら飛行機を欠航にするべきだ、とおもうのだ。
 羽田空港に第2ターミナルが出来て、JALとANAがふたつのターミナルに分かれてからは、ずいぶんバス移動の確率が減ったが、いまだに今回のように運わるく当たることがある。ついつい、バスの運転手に「整理券はどこですか?」と訊ねて、腹いせをしてしまう。もちろんそんなことで腹いせをする自分がこの世でもっとも愚かしい男であることは百も承知だが、ともかく「ニタミ」がわからずにイライラしているのだから仕方がない。
 バスのなかに携帯電話を使って話している若い女性がいた。会話内容から彼女が添乗員であることは明らかだった。その彼女が、あるとき偶然にも「イチタミ」といったのだった。添乗員の間で交わされる隠語でもあるのか? とおもった瞬間だった。2日間にわたるぼくの疑問が霧散したのだった。
「ニタミ」は第2ターミナル、「イチタミ」は第1ターミナルにちがいない。
 今日はよく眠れるはずだ。あの俳優の名はまあいい、今晩のところは放っておくことにする。
 with FujiFilm X10 2011/11 羽田空港
by bbbesdur | 2011-11-16 00:34 | around tokyo