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#377 ホームページの怪

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 昨年の大晦日の晩に、付き合いのながい釣友から以下のようなメールがあった。あまりに子供じみたバカバカしい内容だったので放っておこうかともおもったが、どうしてもオマエのblogで紹介してほしい、というので、仕方なく掲載する。誤字脱字がおおく、意味不明の箇所が無数にあったのを、修正したのが以下の文章である。

 読み物と写真やイラスト中心に、部屋のなかでフライフィッシングが愉しめるホームページがあったらいいなあ、とおもいついたのは昨年の春くらいだったかなあ。オレだけじゃなくて、仲間内でいろいろな新しいアイディアを持ち寄って、自分たちで愉しむってのはフライフィッシングのまたひとつ別な愉しみだよな、っておもったんだ。うん、このアイディア、イケる、イケるって、ひとりで盛り上がってた。
 オマエも知ってのとおり、オレ、去年めちゃくちゃ仕事が忙しかっただろう。ほら、米軍関係の入札でさ。で、ぜんぜん釣りに行けなかったじゃないか。なんども誘いを断って悪かったけどもさ。今年あれだけ気合いが入ったのは、たぶんその反動だったとおもうんだ。2度もアメリカに釣りに行って、北海道はオマエといっしょに行ったのを含めて3回、それに秋田は出張帰りになんども行ったし、四国も2回行った。そうそう3月には待ちきれなくて会社の仲間と雪の蒲田も行ったっけか。
 まあそんなこんなで久しぶりに釣りに夢中になっていて、わかったことがあって、フライフィッシングは仕事の片手間にはできない、ってことだったんだ。仕事かフライかどっちかを選べって、だれかわからないけど、釣りの神様かなにかに選択を迫られているような気がしたんだ。
 で、じっさい、そうしちゃっているヤツおおいじゃないか。オマエも知ってるAもBもCも、昔は会社に勤めていたけど、いまはショップやってたり、バンブー作ってたりするだろ。
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 夏にイエローストーンのマジソン・リバーでひとりで釣っているとき、真っ青な空にひとつだけ、まんまるの雲が流れてきてさ、そのとき空を見上げて、会社辞めたいな、ってこころの底からおもったんだ。そのとき、ふいにホームページのことが頭から出てきて、そうか、あれならいけるかもしれないな、とおもった。いまは無理でも、すくなくとも、なんらかの形態で一年後あたりにビジネス化するときの宣伝にはなる。もし、ビジネス化がムリそうだったら、会社を辞めなければいいし。
 で、最初にかんがえたのは、AやBやCの店の広告をホームページに載っければ、多少は彼らの役に立つんじゃないかな、ということだったんだ。フライフィッシング業界は、いままさに冬の時代だろ。AもBもCも口を揃えて、かなり厳しい、ほんとうに厳しい、なんとかしてくれ、っていうから、じゃあ、ここらでいっちょうフライフィッシング界を盛り上げてみるか、って気になってきた。オレがやらなくてダレがやる、ってなかんじでな。
 おもいかえせばそうかんがえたことが、大まちがいの始まりだった。
「ならばもっとそのアイディアを拡大して・・・・・・」とほかの友人が懇意にしている店も載せよう、おおけれおおいほど盛り上がるじゃないの」と激しく曲折していった。それがかえって競争を生んで、店同士がいっそう激しく争わなくてはならなくなるとはおもわなかったんだ。結局、オレがやろうとしていたのは、我田引水の標本みたいなケースだった。
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 残念なことには、自分の醜さっていうのは、自分では気がつきにくいものだろ、で、たいがい外部からの風の便り、とか悪評、という形で、本人の耳に入ってくる。
 ある人物からの遠回しなメールで、オレはハタとその事実に気づいた。自分の醜さと愚かさを知って激しく落ち込んでいるその矢先に、さらにちいさな事件が追い打ちをかけた。
「どうせなら友人の役に立ちたい」というオレの気持ちそのものにウソはなかったはずだが、自分がやろうとしていることのためにもなる、という打算もあったはずだ。もちろんホームページを、あるいはオマエがやっているあのTOKYO/NAHAなんとかっていう軽薄なブログ、なんかを作るというのは、どう理由をこじつけてみても自分のためでしかないとしてもだ。
 そりゃあ、オレにだって、「表現」というものはすべからく自己という、哀しい欲望の塊としての人間のはけ口なのだ、と認識するくらいの自覚はあるさ。じっさいオレは文学や絵画や音楽を、ある傾向の人々の、やむにやまれぬ文化的排泄行為とおもってる。なかなか言い得て妙だろう。まさに、いまオレは排泄をしたわけだ、気の利いた言葉をかんがえることによって。
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 他人の欲望のはけ口としての「表現」をアートと呼んでみたり、芸術といったりして、ありがたがるのが、人間の不思議であり、愉しみであり、喜びであることは、もちろん否定しないさ。文化的うんこをしないでは生きていけない人間もいれば、そんな彼らのうんこを必要としている文化的スカトロ系のヤツもいる。
 でもさ、問題は本人がその「表現」をエラい、とか「人のため、世のため」なんて思い込みやすいことなんだ。表現が自分のための排泄だってことを、きれいさっぱり忘れてしまってさ。たしかに肥溜めは、明日を生きるために育てる畑の作物に必要ではあるけどもね。
 ちょっと話が逸れたけども、ともかく今回のオレはまさしく自分のうんこがありがたがられると信じた愚かな阿呆だった。フライフィッシング界のために、オレは良いことをしている、という勘違いを起こしてしまったんだ、いつの間にか。いつとも知れない独り酒の晩だったか、ショップでAと語り合っている最中であったか、工房でBが削る竹の匂いを嗅いでいるときだったか、あるいは初めてのアメマス釣りで63センチを釣り上げたときだったか、あるいは客先でのプレゼンテーションが終わったときだったか。
 オレは普段、そういった勘違い男(女のケースもままあるが)を激しく憎んでる。自分の愚かさ加減にまるで気がつかないで、よくもそんな阿呆面さげて、公衆の面前に出られるものだなあ、と。
 そして、それは、今回、非常に残念なことには、オレ自身だったんだ。そう気づいたときの衝撃がどのくらいだったか、というと、すくなく見積もっても、C子に男がいる、って知ったとき同等だったとおもうよ。あのときもショックだったけども、まあC子とはそろそろ別れ時だったわけだし、今回の方がキツかったかもしれない。あのときはオマエにも迷惑をかけたけどさ。
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 オレはもうホームページなんて止めてしまおう、その方がどんなに楽か、そもそもどうしてホームページをつくろうなんておもったのか、というふうにおもいはじめた。
 でも、そもそもの発想は「フライフィッシングのホームページを作って、仲間内でいろいろな新しいアイディアを持ち寄って、自分たちで愉しむ」であったはずで、それは「自分でフライを巻いて、友達と水辺に行って、魚を釣って、リリースして愉しむ」という過程となんら変わらない、遊びの一形態だったはずなんだ。
 初心を忘れていたって気づいた。
 そうおもって、もういちど気持ちを「遊ぶ」ことに切り替えようと努力したんだ。遊ぶことにも努力が必要だとはおもわなかった。
 で、ホームページ開設予定の元旦まであと数日と迫ったある晩に、オレは決心して「遊ぶのも大変だよなあ」と溜め息をつきつつ、MACの前に坐ったんだ。で、宣伝の載ったホームページの一部を「エイッ!」とばかりに、バッサリと削除した。
 そのときだった。
 ふいに両肩が軽くなったんだ。驚いたオレが頭上を見上げると、憑依していたなにか(あれは欲望の塊だったとおもう)が、ゆらゆらと揺らめきながら、天井の木目のなかに消えてゆくところだった。うらめしそうに、未練たっぷりの色目でオレを見つめながらね。
 with GRD3/D700 TAMRON 90mm MACRO/GF-1 20mm 1.7
*フライフィッシングWEBマガジン「ふらい人」創刊しました。
by bbbesdur | 2011-01-02 22:13 | 短編小説