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#336 禁断の味

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 ヘビが出そうなところに生えているからヘビイチゴと呼ばれるが、早い話が水辺におおい植物で、釣りに行って見かけることがおおい。
 岩手に住んでいるぼくの友人にヘビ好きな男がいる。
 ある年の梅雨入り前、彼は山里に釣りに行った。奥羽山地に源を発する清冽な流れで、頭上に覆い被さる樹々も少なく、水が光に踊るように跳ねていた。彼は土手に車を止め、はやる気持ちを抑えながらウエイダーを穿き、ベストを着て、竿を繋いだ。雲ひとつない陽気だったが、この季節ならまだイワナは気軽に毛針に出てくれるはずと期待した。
 河原の土手のところどころに、高さ30センチくらいの土盛りがあった。一刻も早く川辺に立ちたかった彼は、低くなった下流側へと回り道をせず、その土盛りを踏んで河原へ近道をしようとした。それが数匹のアオダイショウが渾然一体となっている小山であることがわかったとき、彼がいうには「股間に冷や汗が流れた」そうだ。ぼくは仕事や財布が見つからないときなど、脇に掻く冷や汗なら日常的に経験があるが、股間に冷や汗を流した記憶はない。
 彼はウエイダーの底に貼ってあるフェルトの数本のファイバーがヘビの胴体を撫でるのを感じながら、寸でのところで大股に跨いで河原側に着地した。しかし土手の構造特性上、河原の方が低いものだから、必然的に彼の股間はヘビの頭上を掠めた。ずずずずっ、と湿った足元の土が河原側に沈んだ時、彼は「噛まれる!」と局部に意味もなく力を入れたが、彼がいうには「噛まれなかったが、舐められた」そうだ。ちょろちょろとしたあの細長い舌で、とはいわなかったが。
 それ以来、彼は土手でひなたぼっこをしているヘビを見ると、そうっと跨ぐ癖がついてしまった、そうだ。
 with GRD3 2010/5/29撮影 丹沢
by bbbesdur | 2010-05-30 10:35 | flyfishing