2010年 05月 01日
#323 欲望という名のカメラ
Yusukeへ 例によって、コメントの返信を書いていたら異様に長くなったから、今日の記事として載っけることにした。
東京における中古カメラの両横綱は在庫量からいって、まずはマップカメラとフジヤカメラにまちがいないとおもうけど、売るんだったらマップカメラが高くて、買うんだったらフジヤカメラが安い。だからぼくが中古のGRD2を買ったのはフジヤカメラで、売ったのはマップカメラだ。GRD3は発売直後にすぐに新品をマップカメラで買った。新品の価格はお互いの価格を意識し合っているからあんまり変わらない。でも新品を買いつつ売るブツもあった場合、買い取り査定額が10%(15%のときもある)上がるから、売り買いを同時にした方がメリットが大きいんだ。それに、売るときについていえば、マップカメラは元箱があると多少高く買ってくれるし、全体的に査定が丁寧だ。
いきなり話は突然逸れるけど、この元箱っていう不思議な日本語、いったいだれがいい出したんだろう? カメラの世界でいえば「ハイアマチュア」ってのも奇妙だ。おそらく「ハイ・レベル・アマチュア」あたりが短絡されたんだろうけど、ばかばかしくも哀しい響きだなあ。世の中には食ってるプロと食えない/食わないアマしかいないんだ。
で、話を元にもどす。査定が丁寧ということは細かいことでケチをつけられる可能性もあるわけだけど、マップカメラには「中古商品の価値」というものを打ち出そうという姿勢が見える。フジヤカメラは質屋的な気楽さと、庶民性を打ち出している(というか、そうなっちゃったという雰囲気だけど)。元箱があってもなくても買い取り価格にほとんど影響しない(というか、現実的に箱を置いておくスペースがなくて、新品同様以外は元箱があっても捨ててるんじゃないかなあ)。
店舗についていえば、マップカメラは買い取りと小売り販売でビルがちがう。買い取り店舗はエレベーターで上がると、銀行のように整理券発行の機械があって、銀行みたいに並んでいる椅子に坐って待つ。一方フジヤカメラはニコン売り場は2Fだけど階段しかないし、椅子なんてどこにもない。
販売商品の展示方法もだいぶちがう。マップカメラは買い取り店舗から50メートルくらい離れた別店舗で、やっぱりエレベーターで上がると店内が薄暗い。新品っぽく見えるように照明を暗くして、商品にスポットを当てるような工夫をしているんだ。まるでライカショップに行ったみたい。フジヤカメラは天井の蛍光灯が禍々しいくらいに光っていて、格安の掘り出し物がありそうな気配がある。
必然的に店員の接客態度にもちがいが出る。マップカメラは機材を持ってきた客を「ご不要になったから売られるんですね」的な扱いをするが、フジヤカメラでは「金がないから売りに来たんだよね」的な対応をする。
商品についていえば、マップカメラは買い取った品物を丁寧に清掃してから販売している。フジヤカメラは、いまさっき買ったヤツに値札をつけて、そのままショーウインドーに並べたといった風情だ。だから見栄えが悪い。レンズくらいは綺麗に拭けばいいのにとおもうけど、周辺に拭き残しがある。でもそんなこんなを気にしなければフジヤカメラがかなり安い。
この両横綱がライバルでありながらも、客の食い合いをしていない理由はどうやらこのあたりにありそうだ。マップカメラは品質にこだわって高値で売り、フジヤカメラは品質を気にしないで安値で売る、という明確な企業戦略を取っている。言い方を変えれば、彼らの販売/買い取り手法そのものが、客を選んでいるわけだ。
たとえばぼくの場合。いまNikon AF-S DX18-55mmF3.5-5.6 G VRを中古で買うとする。マップカメラでは15,800円でフジヤカメラは7,350円。半額! で、程度は? ってことになるんだけどさあ、ぼくの場合「激しく使う」から、中古レンズなんてなんでもおなじだ。「激しく使う」というのは、いっぱい撮るという意味じゃなくって、アウトドアに持って行くから、樹や岩に当てたり、水が掛かったりすることがあたりまえで、しかもレンズキャップをしないまま剥き出しで山や川を歩くということなんだ。
フライフィッシングをする人しかわからないとおもうけど「シマザキシェイク」っていう毛針を乾かすための白い粉があって必携品なんだけど、一日中使っているとレンズのズームやピントのラバーリングの隙間に白い粉がびっしり入り込んじゃって、ニコンなのに遠目にはキャノンの白い鏡胴のレンズに見えてるかもしれない。で、家や宿に帰ってから清掃しようとしても、なにしろ異常に粒子が細かい粉で、完全に拭き取ることなんて不可能なんだ。
というわけで、どうせすぐに汚れてしまうから、よほどヨレヨレでないかぎり機材の外観にはこだわらないことにしている。じっさい、レンズはキズとカビさえなければ、少々のほこりくらいで写りに影響が出るなんてことはない。レンズの価格はほとんどが開発コストみたいなもので、材料原価や製造コストなんて、300mmレンズだったら10mm分くらいのものじゃないのかなあ。残念ながら写真には写らないけど、じっさい長くなればなるほど、樽型に膨らんだ歪曲みたいに利益が膨らんでいるはずなんだ。と、おもっているから、レンズに関しては中古があるかぎり、中古を買うことにしている。
カメラ本体も基本的には中古でいきたいところなんだけど、新品ボディはやっぱり大人のおもちゃなんだよね。欲望に負けちゃうことがおおい。昔から「畳とカメラは新しい方がいい」っていうじゃないか。GRD3のときも、中古が出回るようになるまで、じっくり待とうと決意していながら、ちょっと隙を見せた瞬間に後ろからバッサリとやられた。GXRも危なかったけど、マクロのオートフォーカスが遅くて、ほんとうに助かった。それに年内に発売されるはずのAPSサイズ単焦点広角が28mmで良かった。GRD3とおんなじ焦点のふたつのカメラを持ち歩くわけにはいかないもの。もし24mmか21mmだったら完全に危険水域だったとおもう。なんていっておきながら28mmのサンプルが出たら、わからないんだなあ、これが。遅い遅いと不満だったマクロと合わせて買って、どこかの河原でユニット交換している自分が水晶玉越しに見えているような気もする。
ところで機材を売るにはネットオークションという方法もあるだろうけど、ぼくには無理だな。自分の醜さを知り過ぎているからだとおもう。「並品」を「美品」と書いて出品してしまいそうな気がするんだ。そんな自分の醜さを見るのもいやだから、やめておくんだ。「美品」を「並品」と書くことが出来るくらいに成長したらやってみるかもしれないけど、このままのペースだとその境地に達するまでに、最低あと100年はかかりそうだ。
ところで最後に。もし中古を買うなら、なによりも重要なのは保険だよ。中古はしばらく使っているうちに、ふいにガクッとくることがある。たぶん以前の所有者が修理したトラブルが再発しているんだとおもう。Yusukeの場合、会社の団体保険に特約を入れておけば、免責3,000円で年間30万円まで直せる。ぼくは毎年、かならずなにかを水没させるか落下させるから、この保険は必須なんだ。この保険があるから会社を辞めないようなものだ(10%くらいは本気)。なんたって月々180円!だからね。
あっ、そうか、中古を買うときのことなんて Yusuke訊いてなかったか。ごめん、話が長くなっちゃったけど、コメントの質問に答えるなら、ぼくの場合中古カメラ機材は
「売る時はマップカメラだよ」
コメント欄にこう一行に簡潔にまとめることだって出来たんだけどね。でもさあ、GWはぜったいにどこにも行かないって毎年決めているから、けっこう暇でさあ、質問に必要以上に丁寧に答えちゃったわけ。Yusukeもどうせ暇だろうとおもってさ。ところでH子さんロンドンから帰って来るって知ってる?
with GRDII 2009/4/7撮影 六本木ヒルズ
(久しぶりにGRD2の写真を見たけど、やっぱりGRD3はかなり良くなってる。と、そうおもうことが問題の発端なのだ!)