2010年 04月 18日
#315 花になった男の初恋
花になった男はたちまち隣りに立っているチューリップに恋をした。
人間だったころ、男は花を美しいとおもったことはあっても「手を握りたい」とか「身体に触れたい」とおもったことはなかった。花は触れるものではなく、鑑賞するものだったのだ。しかし、いま男は身体の奥から湧き上がってくるはっきりとした欲望を感じた。花弁に触れたい、唇を交わしたい、彼女の蕊に身を埋めたい。男はなにかいい方法はないかと思案した。
男は自分の周囲を飛んでいる一匹のハナアブを見て、人間だったころの記憶を思い出した。
「オイ、キミ!」
男はハナアブに「君を愛している」というメッセージを托した。飛び去ったハナアブはすぐに隣りのチューリップの花弁にもぐり込み、男のメッセージを伝えた。
もどってきたハナアブに男は首尾を聞いた。
「もう3日待ってください。わたしの準備が整うまで」
とハナアブは彼女からの伝言を伝えた。
男は狂喜した。いま、久しぶりに晴れた東京の空の下で、男は待ち切れないおもいで春の太陽を全身に浴びている。
with D700 AF-S NIKKOR 24mm F1.4G ED 2010/4/17撮影 自宅