2010年 04月 10日
#310 祖父の失敗
どんなに年を経ようと忘れられない思い出というものはある。ぼくがこの子の年頃、祖父といっしょにホンダのカブで隣町まで買い物に出かけたことがあった。猛烈に愉しかった。もの凄い興奮だった。だから翌日以降、ぼくは誰かがバイクで外出するときには必ず、いっしょに連れて行ってくれとせがんだ。しかしその日以降、なぜか誰ひとりとして、ぼくをバイクに乗せてくれはしなかった。祖父でさえ。
ぼくは自分がなにか悪いことをしたのではないかとおもった。お店に着いても何かを買って欲しいなんていわない、と約束したけれどもダメだった。大人たちはぼくに、こういった。
――バイクのふたり乗りはしちゃいけないんだ。
もちろんぼくは納得しなかった。街でふたり乗りのバイクを見かけたから。
――あれは大きいからいいんだよ。
――そんなのウソだ。だって、この前はおじいちゃん乗せてくれたじゃないか。
大人たちは「ほんとうはいけないんだ」と言葉を足したが、ぼくは信じなかった。大人たちがぼくをバイクに乗せたくないのだとおもった。
いつごろぼくは自分を納得させることができたのか覚えていない。サンタクロースがいなくなるように、いつからか原付のふたり乗りはやってはいけないことになっていた。
with GRD3 2010/4/17撮影