2010年 03月 21日
#305 シャドー・フィッシング
白昼に釣り人は幻影を見た。自分の影に竿を奪われたのだ。
「たまにはワタシにも釣りをさせてほしい」
「オマエが釣りをしている間、わたしはどうすればいいのだ?」
釣り人は影に訊いた。
「影になって、ワタシに釣り方を教えてくれるとありがたい」
釣り人は素直に頷いた。
空には雲ひとつなかった。影はただひたすら竿を振った。
「こんなピーカンに、出てくるヤマメはいやしない。日が暮れるまで待つしかない」
釣り人は影にそういった。
影は水面でゆらゆら揺れた。
「オマエは釣りに向いていないんだ」
影は哀しみにぶるぶるとからだを震わせ、白泡のなかに吸い込まれていった。
with D700 AF-S NIKKOR 16-35mm F4G ED VR 2010/3/14撮影 蒲田川