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 単に膿を出すだけの切開を手術だと誤解していたぼくには「やっぱりそうだったか」という気持ちもあった。というのも、ぼくが病院で経験したのは、かつて職場の先輩たちが口々に嘆いていた「痔の手術の信じられない痛み」からは程遠い痛みだったからだ。手術の痛みを恐怖したぼくは、インターネットで「切らずに治す」方法を探したが、あっという間に玉砕した。「切らずに治す」ことが出来るのはイボ痔と一部の切れ痔に限ってのことなのだった。痔瘻に関しては「手術する以外に治す方法がない」ということがはっきりしていた。ただ、インターネットで得た情報に救われた点もあった。曰く「手術そのものは痛くない」という体験談が多かったのだ。痔の手術技術は、この20年くらいで急速に進歩したらしく、かつて痛い思いをしたぼくの先輩たちの体験談はいまや伝説らしかった。
 ぼくのような痔のシロウトがインターネットで自分の病気についてあれこれと調べることには様々な意義があった。なによりも体験談の多さから痔という病気が特殊でないことがわかって安心した。たとえばこの調査を見て欲しい。日本における痔の経験者は、なんと75%を超えているのだ。日本人の¾が罹患したことがある、あるいは目下進行中だというのに「いやー、参ったよ、今回の風邪はしつこくて」というふうには語られない。排泄器官というのは日常的に秘匿しつつ、具合が悪くなった時にも他人に隠し通される不憫な黒子なのだ。ほんとうはイチロー並みのメジャー・リーガーだというのに。
 もうひとつ興味ある事実は、日本人と西洋人の痔への対処の違いだった。日本人が自分の痔を認識して病院に行くまでに要する日数はなんと365日を超えているというのだ。いぼ痔なら市販薬で治してしまおうとする日本人とは対照的に、西洋人は罹患から通院までが10日程度だという(さっきネタ元のサイトを探そうとしたんだけども見つかりませんでした。細かい数字はともかく、いずれにしてもこのくらいの大差であることは間違いありません)。やはり日本人は病気になっても、恥ずかしがり屋さんなのだった。
 ネット検索のさらなる効用は、いろいろと調べるうちに、徐々に覚悟が決まって来ることだ。釣りから戻ったぼくはその日にガーゼに付着したイヤなものを確認したが、じつはそれ以降、膿らしきものの流出は止まっていたのである。ぼくはその時期、これで治ったのかもしれない、と思いたがっていた。ところが翌週のある朝、横須賀の駐車場で車に乗り込む際、まさに「ビリッ!」という感じで患部が避けてパンツが濡れた感覚があった。痛みはさほどでもなかったが、仕事中のお漏らしはマズイのですぐにトイレに行って、恐る恐るパンツを見ると、膿だった。じつはこれもネット検索で事前知識はあったのだ。一時的に治癒したようにおもえるが、そうではない、と書かれてあったのだ。この一件で、ぼくの覚悟は決まったのだった。つづく。

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# by bbbesdur | 2017-03-03 20:19 | health care


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 釣りを終えて、東京に戻ったぼくは、ガーゼについた黄色のそれが、イヤなニオイを発していることに気づいた。もちろんお尻から出るニオイだから、期待する方がどうかしているとしても、少なくとも長年嗅ぎ慣れてきた例の「摂取物の残滓」が発するニオイとは明確に違っていた。ぼくはまたまたインターネットで様々なサイトを検索した。医療機関が公開しているサイトやまさしくぼくが今書いているような体験談を掲載したブログから得た情報を総合すると、ぼくはK門周辺膿腫から痔瘻へと進んだらしかった。このあたりはぼくが調べたかぎり、この病気のもっともわかりにくかった点なので、ここに正確に記しておく。後進の皆さんは大いに参考にしてほしい。K門周辺膿腫というのは、K門の内側にあるK門小窩から入り込んだ雑菌でK門腺が炎症を起こし、膿を孕んでしまった状態をいう。たぶん、この説明ではほとんどの人が理解できないとおもう。なので、まず初めにK門の構造について説明しようか。
 K門はご存知の通り、人が体内に取り込んだ「摂取物の残滓」が体外へ放出される最終ポイントである。3Kどころではないダーティー・ジョブに慣れているヤツだから、さぞかしハード・ボイルド系の逞しいヤツに違いないと想像している人が多いと思うが、意外なことにはかなり繊細で、文字どおり、傷つきやすい性格をしているのだ。K門の内側はヒダヒダになっていて、その部分はK門小窩と呼ばれる。小窩と呼ばれる名の通り、ヒダヒダの凹部分はちいさな窪みになっている。この小さな窪みに雑菌が溜まることによって、K門の内側が炎症を起こすのだ。「おいおい、窪みに雑菌が溜まるって言われても、そもそもK門って雑菌の通り道じゃないの?」という疑問は正しい。ぼくもそうおもって医師に聞いた。医師は「じつはK門というのは毎日毎日、離れ業をやってのける凄い器官なんです」と答え、ぼくはそのとき、ふとスーパーキャッチをするイチローをおもった。正確に言うと、雑菌は通過しても炎症を起こさないが、留まることによって炎症を起こすらしいのだ。その最大の原因が下痢なのである。下痢が繰り返されることによって、雑菌が勢い良く、くぼみの奥へと押し込められ滞留してしまうのである。滞留した雑菌がK門に隣接するK門腺に感染して炎症を起こし、やがて膿が溜まる。さしものイチローだって、毎日毎日働きづくめではさすがに疲れも溜まってエラーも出るというものである。そして炎症はアルコールを代表格とする刺激物によって悪化する。K門線はK門の外側に向かって伸びていて、腫れると外側から見える。沖縄の暴飲で腫れたぼくのお尻を見て医師が喜んだのは、どこを切れば良いかが明確になったからだ。
 というわけで、ここまでがK門周辺膿腫へ至る道筋である。で、K門周辺膿腫の治療には抗生剤が効くことがあり、沖縄に行く前に医師がぼくに施したのが、この第1段階の処置だった。で、第2段階が患部を切って膿を出し、炎症を軽減する処置で、ぼくが釣りに行く前日に受けた治療だった。で、この処置を受けることによって、結果的にK門の内側とお尻の外側が一本の穴で繋がることになり、この状態を痔瘻、もしくはそのものずばりの「アナ痔」と呼ぶのだ。もともとあるお尻の穴とは別に、お尻の中と外が繋がるまったくもって余計な穴で活躍する次号のイチローにご期待を!


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# by bbbesdur | 2017-02-28 22:26 | health care

#678 痔の話 第4回

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 患部を切開して盛大に膿を出し、日帰り手術を終えた気になっていた(じつはこれは手術ではなかったのだ)ぼくには、しかしひとつ問題があった。まさにその日(金曜日)の深夜に岩手に移動して、現地の友人と釣りをする予定だったのだ。ぼくには友人との釣りの約束だけは余程のことがなければドタキャンしないというポリシーがある。「余程のこと」が今回の痔の手術(とおもっていた)に相当するかどうかは判断が難しかった。迷った末に痔なんてキャンセルの理由にはならないという結論を出した。しかし岩手まで車で行くとなると、途中の仮眠を入れて8時間以上はかかる。痔の手術の翌日に8時間ひとりでドライブするっていうのは、さすがにマズいとおもった。そこで急遽予定を変更し、翌朝発の東北新幹線に切り替えた。それもできる限り負担を軽減するためにお尻にグリーン車を奢った。じっさい移動中にはまるで問題はなく、ときどき揺れる新幹線のトイレでお尻に貼られたガーゼを確認したが、出血がひどくなっている気配はなかった。友人との釣りは愉しかった。岩手南部の里川では桜が満開で、うららかな初春の陽気にヤマメたちも浮かれていた。しかし土手を上り下りするときに、普段はまったく意識することのなかったお尻の筋肉の重要性を思い知った。やはりムリがたたったのか、帰りに寄ったラーメン屋ではカウンターの止まり木に直接座ることが出来なかった。お尻が痛いんだけど、というとお店の女の子が気を利かせて座布団を持ってきてくれた。ぼくはいっぺんでその女の子が好きになった。岩手の女の子は優しい。初日に宿に戻ってシャワーを浴びたが、やはり切ったところから、多少の出血があった。まああれだけ運動したのだから仕方がないだろうとおもった。翌日ももちろん釣りをした。雲が多くて寒い1日だった。ヤマメたちも前日の陽気さとは打って変わって不機嫌に黙り込んでしまった。まあ釣りにはありがちなことだ。その日は釣りを早めに切り上げ、宿に戻って、シャワーを浴びる前にガーゼを確認すると、なんだか前日と様子が違っていた。血ではなく、黄色く汚れたシミが出来ていた。切開した部位から、膿が出ている。おかしい、普通ではない。ぼくはその日のヤマメのようにたちまち元気を失った。つづきます。

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# by bbbesdur | 2017-02-27 20:54 | health care