<   2009年 05月 ( 31 )   > この月の画像一覧

#124 娘の微笑み

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 昨夜、23:30過ぎ、庭先で突然、猫が愛を語り始めた。ぼくは悟られないように部屋の電気を暗くしてから、そっとカーテンを開けた。いっぴきの牝猫が芝の上に身体をこすりつけるようにして転げ回っていた。
 暗がりに目を凝らすと薄暗い玄関灯の脇に牡猫が地蔵のような影になって佇んでいた。牡猫はじっとしたまま、牝猫を見ていた。
 牝猫の声はさらにおおきくなった。声にはだれが聴いてもわかるほどの性的なニュアンスがあった。ぼくは2階でPCに向かっているだろう娘が気になり始めた。彼女の部屋からはちいさな庭全体が見下ろせる。教育上好ましくない、なんておもわない。猫の交尾は、めしべとおしべよりずっとわかりやすい。それに、だいいち娘はそんな年齢ではなかった。その日ぼくは娘の成人式用の写真を撮ったのだった。娘は着物を着て「まあ、そうだなあ、美しくなくはない、といってもいいすぎじゃないんじゃないかなあ」くらいの美しさで親バカを愉しませてくれた。いろいろと事情があって、こんな奇妙な時期に成人式用の写真撮影をしたのだ。娘はいままさに100枚以上の自分の写真をPCで眺めているはずなのだった。
 ぼくはカメラを持って忍び足で玄関扉を開けた。牡猫はすでに牝猫に触れる距離まできていた。さらに近づいてカメラを構えた瞬間だった。玄関扉が開いて、娘が出てきた。
「喧嘩してるの?」
 二匹の猫はこちらをむいた姿勢のまま、固まったようになった。
「そうみたいだね」
 ぼくの声を聴いた猫たちは、そろりそろりと庭から出て行った。ぼくはあきらめて玄関へもどった。娘はどことなく曖昧な表情でぼくを見た。喧嘩してるの、? というわりには、どこか中途半端な微笑みを頬にのこしたまま。
 いつまでも幼かった娘も、もうすぐ成人。なあ娘よ、オマエいつから小学生じゃなくなっちゃたんだい?
 with GRDII 2009/5/26 撮影 西条
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by bbbesdur | 2009-05-31 12:11 | around tokyo

#123 3人の背中

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 坂のおおい街だった。ぼくたちは彼を両脇に抱えて坂を上ったり、下りたりした。彼の家はなかなか見つからなかった。
 雨が降っていた。朝からしとしとと降り止まず、呆れるほど根気よく降りつづけていた。ぼくたちも根気よく彼の家を捜しつづけた。彼を両脇に抱えたふたりの若者はぼくの同僚だった。ふたりとも優しかった。不平のひとつもいいたくなるだろうに、しかしふたりには経験があった。ふたりには、酔いつぶれた真ん中の男の年齢だったことがあったのだ。ぼくには前を行く、両脇の2人の年齢だったことがあった。
 ぼくは後ろから3人に2本の傘を差しかけながら、坂を行ったりきたりした。両腕が痺れてきたけれども、前を歩くふたりの右腕と左腕はもっと痺れているはずだった。
 右側の男がぼくを振りむいていった。
「なんだか懐かしいですね」
 左側の男が、すこし笑って、
「ほんとうだね」
 といった。
 ぼくはふたりの若々しい声をどこかで聴いたような気がした。それが新宿だったか、池袋だったか、渋谷だったか、あるいは那覇だったか、記憶にないが、ぼくは右側の男だったことがあり、左側の男だったこともあった。そして、もちろん真ん中の男だったことも。
 with GRDII 2009/5/29撮影 宮崎台
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by bbbesdur | 2009-05-30 21:59 | around tokyo

#122 じつはわたしです

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 昨日、花じゃなくなった花がぼくを見つめていたと書いたけれども、じっさい花じゃなかったみたいだ。キミだったんだね。
 GRDII 2009/5/26 撮影 西条
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by bbbesdur | 2009-05-30 00:46 | west japan

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 君は仕事に疲れて浜辺に走った。そして海を眺めて、とてもおおきな深呼吸をした。「わたしは深呼吸をしているんだ」というふうに意識して。そうすると、こころのなかに溜まった黒い異物が、すくなくとも灰色の霞くらいにはなる。海にそんな効用があることを、君はだいぶ昔に写真集で知った。
 Joel Meyerowitzの「BAY/SKY」。すべての写真が8x10の大型VIEWカメラで撮られている。どのページにも海岸と空しか写っていない。きわめて微妙なトーンの色彩がページを満たしつづけ、どこまでいっても、穏やかな海と空しかない。そして眺め終わって、写真集を閉じたあと、君は自分のこころに静けさがやってきていることに気づいた。それからというもの、こころに靄がかかったり、棘が刺さったりするたびに海へ行く。浜辺で生まれ育ったのに、海を知ったのは写真集だったわけだ、と君は苦笑した。ぼくは飲み屋でのそんな君の話を、ふーん、といって聴いていた。
 ぼくは一昨日、浜辺に走った。そして「ぼくはいま深呼吸をしているんだ」というふうにおもいながら、深呼吸をした。浜辺の花がじっとそんなぼくを見ていた。見つめ返すと花は花でなくなり、人のようにおもえてきた。
 君が正しかったことを認める。海につきまといがちな抒情的な気分を否定して、どちらかというとバカにしたような顔をしたことを謝る。海を見ている自分の背中をナルシスティックな想像で見ているんじゃないのか、なんていったことを謝る。
 ほんとうだ、海には汚れたこころを浄化する作用があった。
 今回のようにたまたま出張先の近くに海があるときはいい、沖縄にいるときもだいじょうぶ。でも東京にいるとき、海は遠い。晴海埠頭なら銀座からすぐの距離なのに、気分的に遠い。つまりこころが海からかけ離れた距離にあるのだ。だからこそぼくにも海が必要だ。ぼくは注文した「BAY/SKY」の到着を待っている。海が家にやってくるのだ。
 with GRDII 2009/5/26撮影 西条
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by bbbesdur | 2009-05-28 19:30 | flower

#120 美しい男子トイレ

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 山陽自動車道の広島県内のサービス・エリアにはほかとちがった特徴がある。4月22日に紹介した宮島SAなんかは、まさしくその典型だけれども、じつは目立たないながらもすばらしくゆき届いているのがトイレだ。トイレ中が水浸しになってしまうような清掃の仕方をするサービスエリアがおおいけれど、広島県内の、すくなくとも下りでは、そういった体験をしたことがない。
 この花を見て(女性には見慣れない光景かもしれない!)。
 夜の高速道路を走って、トイレに行って、用を足してから手を洗おうとすると、こんな新鮮で、美しい花がぼくたちを迎えてくれる。高速道路というどちらかというと殺伐とした環境の、それもトイレという場所にこうした花を活ける女性(これはまちがいなく男性ではなく女性の仕業だ)の心配りに気持ちがうごく(上りの宮島SAに寄ったときには造花だった。予算の関係なのかもしれないが、ではなぜ下りだけ?)。
 だからぼくは、広島空港から岩国へ向かって走るときには、きっとトイレに立ち寄る。ぜんぜんその気がないときでも、無理をして。きっとそのとき、ぼくは男子トイレで、だれか知らない女性と触れあっているのだ。
 with GRDII 2009/5/25 撮影 山陽自動車道 小谷SA
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by bbbesdur | 2009-05-27 19:24 | west japan

#119 バラの留守番

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 日曜日の雨上がりに母に会いに行った。けれど、家にはだれもいなかった。携帯電話に連絡すると、博多の実家にいるという。父はいるはずなのだが、どこにもいない。庭に回って、バラを撮った。母がいつからバラの栽培に凝り始めたか記憶にないが、すくなくとも10数年にはなるだろう。
 黄色いバラの花弁が葉叢とともに東側の壁を覆い、寝室の窓だけがまだ空に居残っている雨雲を映して暗かった。だれもいない実家はバラの芳香と色彩に溢れていながら、淋しかった。
 with E-420 Makro-Planar 2.8/60C  2009/5/24撮影 実家にて
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by bbbesdur | 2009-05-26 21:47 | flower

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 ナア、聴いてくれよ、ぼくの悩みを。キミも自分の趣味の世界を持っているからわかってくれるとおもうんだ、こういった種類の葛藤が。 
 ぼくは毎日ひっそりとカレンダーを見つめて、6月15日を待っていたんだ。その日はOLYMPUSというカメラメーカーから新型カメラが発売されることになっている。社長がいってるんだからまちがいない。
 わくわくするこころを抑えながら、いつもどおりの生活をするって、案外愉しいだろう。希望というのかな、カメラ1台に、そんな大げさな言葉をあてるぼくを、キミは笑うかな? 
 そんな静かで平和な日々を送っていたぼくの耳に雑音が聴こえてきたのは先週の5月21日のことだ。伏兵PENTAX、といってもわからないかな、フィルムカメラ時代からのOLYMPUSのライバルなんだけど、予想外のスペックでOLYMPUSの牙城を攻めてきたんだ。ちょっとだけ細かい話をさせてもらうと、防塵防滴で600g台の重さにOLYMPUS E-620並のちいささ、で視野率100%、っていうのはスペック上申し分のないアウトドア仕様の一眼レフ機なんだよ。じっさい一昨年OLYMPUSがE-3という重厚なハイエンド機を発表する前日まで、ぼくはそんなカメラをOLYPMUSの製品として想い描いていたんだ。
 だから先週からぼくの目はPENTAXのHPに釘づけだ。知らなかったけど、なかなか良さそうな単焦点レンズ揃ってるじゃないの、と驚きつつ、「アンタ、まさか、買うつもりじゃないよね!」とか「スペックと使い勝手はちがうからね!」と愚かな自身に警鐘を鳴らしてはいるけど、あんまり自信がない。
 なにしろこれまでぼくが水没させたことのない一眼レフカメラは写真の2台だけなんだ。(逆にいうと、水没させていないから結果的にこの2台だけが手元に残っているというだけのことだけど)。キミは山や川で使うなら、移動しているときにはリュックに入れておけばいい、というかもしれないけど、ぼくは断固としてそういった使い方を拒否している。カメラは四六時中首からブラさげていなければ、使い物にならないって信じているんだ。ホラ、そういっているそばから、いままさにぼくの目の前にアカショウビンが飛んできた! パチリ。ねっ。いったとおりでしょ。街で撮る人もふくめて、生物って一瞬が勝負なんだよ。勝負って、アンタいったい、なにと勝負してるのかって? さあ、なんだろう、たぶん、自分のつまらない人生とだろうなあ。
 まさか来月のこのblogの撮影データにこっそりとPENTAX K-7という文字がマギレこんでいるなんてことはない! ゼッタイにない! とはおもうけど、ぼくという人間は信用できない。いつ悪魔に魂を売り渡したかさえ、いまや憶えていないんだ。 
 まあ、ぼくの深刻でバカげた葛藤はともかく、キャノンとニコンの首位争い、第2グループのオリンパスとペンタックスのアウトドア分野での凌ぎ合いはそれはそれで見ものだ。
 それにしても、デジタル一眼世界はユーザーにとっては、いままさに一番愉しい時期を迎えているとおもう。完成に近づきながらも、完璧な製品はない、という状態で各社が知恵をふりしぼって競い合っているかんじがとてもいいし(20年前のAF一眼レフ競争時代の熱さをおもいだす)、各メーカーを応援するユーザーがいろいろなサイトで勝手気ままに熱っぽい議論を闘わせるのも、ものすごく健全だとおもう。
 そして一歩だけ身を引いて、いまのカメラ界を冷静な目で見渡してみるとき、ぼくたちはまさに時代の目撃者なんだな、っておもう。5月2日の「時代のロマンス」でリンクした(「ズイコー・フォーサーズ あれこれ+FX」からの情報)ミノルタのCM「いまの君はぴかぴかに光って」を見て懐かしむいまのぼくがいるように、ずっと先のいつの日にか、いまのデジタル一眼レフ開発競争を、「あぁ、あんないい時代があったんだなあ」っておもいだすことになるんだな、って。
 with GRDII 2009/5/24撮影 自宅
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by bbbesdur | 2009-05-25 22:30 | camera

#117 Newsを3つ

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 ナショナル・ジオグラフィック日本版が主催している「地球のいのちフォトコンテスト」に入賞しました。最優秀賞の賞品、bogen社から発売されたカメラバッグが欲しいなあ、とおもって応募しましたが、もちろん落選して、ただの入賞。「東京写真月間2009」と連動した企画なので、6月中旬に日比谷公園でパネル展示されます。
 ついでにお知らせしておくと、じつはリコー公式ブログの「GR BLOG」のバーナー(4回に1回ランダムで表示されるやつ)にも、3月18日掲載の「朝の足音」の写真が4月から採用されています。
 ついでにもうひとつ、お知らせしておくと、明日発売の「渓流讃歌 フライロッドを持って旅に出たくなる14の物語」(地球丸発行)に「イワナの視線」というエッセイを書いています。
 以上、お知らせです。
 with E-3 ZD35mm/f3.5 Macro 2008/7/12撮影 自宅花壇
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by bbbesdur | 2009-05-24 09:14 | news

#116 天の羽衣

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 車で出先から帰社する途中に、滞在先のウィークリー・マンションに寄った。その晩は仲間と飲みに行くことになりそうだったから、鞄に入れていた重い一眼レフカメラを部屋に置いていこうとおもったのだ。
 ドアを開けると、部屋の奥の正面にある南の窓から羽衣のような雲が見えた。那覇からほど近い宜野湾には羽衣伝説がある。森の川という場所に天女が降臨し、地上の男と交わったというのだ。きっとこんな雲を見上げながらした男女が伝説発生のきっかけになったんじゃないかな、とおもっていると隣室のベランダから会話が聴こえてきた。
「ねえ、洗濯物を干してよ」
「オマエがやれよ」
「やってよ」
「オレはいいよ」
「いいよって、あたし、お願いしてるんだけど」
「なんでお願いするんだよ」
「・・・・・・」
「なんでオレが洗濯物干すんだよ」
「・・・・・・」
 ぼくは彼女の沈黙が気になって、息を潜めた。でもそれっきりふたりの会話は途切れた。
 沖縄に遊びにきているのだから、洗濯物をどちらが干すかなんていう些細なことで喧嘩しないほうがお互いのためなのにとおもいもしたが、そうではなくて洗濯物以前にふたりの間になにかがあったにちがいなく、きっと洗濯物はたんなる現象なのだ。
 その日の飲み会はなんとなく中止になった。
 ぼくはひとり部屋にもどってアンチョビとキャベツのパスタを作り、ワインを飲んだ。自宅では、マズくなければ一杯では終わらなくなる、という理由で千円ワインしか飲まないけれども、沖縄にいるときだけは、ちょっと奮発して2000円以上のにする。ipodを出張用小型スピーカーにつないで、ブラジルの売れっ子Maria RitaやEmilio Santiagoなんかを聴いているうちに酔っ払ってしまう。自宅ではブラジル音楽は聴かないのに、なぜか沖縄にいると聴きたくなるのだ。部屋を通り抜ける風とか匂いなんかのせいだとおもう。
 その晩はMariaの素敵な声に混じって、隣室の女性の素敵な声もした。仲直りしたらしい。なにしろ年季の入ったマンションで、壁は羽衣のように薄いのだ。
 with D700 DISTAGON T* 2.8/25mm ZF 2009/5/20撮影 那覇市
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by bbbesdur | 2009-05-23 23:17 | okinawa

#115 下半身の夏

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 沖縄らしい不思議な朝だった。鳳凰木は美しくオレンジ色に輝き、光も影も完全に沖縄の夏そのものなのに、空だけがちがう。梅雨は始まったばかりなのだ。
 沖縄の梅雨は本土とはちがって、シトシトと一日中降って、それが何日もつづくというようなことはない。ざーっと降って、ぱっと止み、また降っては、ぱたりと止む、というようなサイクルを繰り返すのが普通だ。なによりも雨が降ったあとがたまらない。濡れた路面に陽射しが注ぐと、歩くそばから水蒸気が真下から立ち昇ってくるのだ。街中がムレムレになる。毎年のことで、慣れているはずのうちなーんちゅでも、さすがに顎があがる季節がやってきたのだ。
 with GRDII 2009/5/20撮影 那覇市役所付近
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by bbbesdur | 2009-05-23 00:09 | okinawa