<   2009年 03月 ( 30 )   > この月の画像一覧

どっちの一年生

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 いまどきの新入社員は黒のスーツと決まってる。昼飯時にすれちがった彼女たちも例に漏れずに全員黒。パンツが多数で、スカートは少数。個性的じゃない、なんていわない。ぼくたちのころは紺と決まっていたから。全員、紺。色が変わっただけだ。
 でも、いつ紺から黒に変わったんだろう。ぼくはときどき新卒採用試験なんてのにも顔を出したりするんだけれども、紺と黒が混ざり合っていた時期があったという記憶がない。まさか「今年から黒になりましたー!」てなことはありえないはずなのに、気がついたら、いつのまにかしっかりみんな黒になっちゃってたんだ。
 で、今年就職活動をする若い人たちに提案なんだけど、面接官がぼくたちの世代であるからには、紺にたいする安心感(あるいはノスタルジー)ってあるとおもうんだ。黒づくめの集団のなかにひとりだけ紺。反骨精神があるようでいて、でもぼくらの世代にとっては常識路線の範疇。個性的でありながら、協調性もあるように見えてしまう、っていう効果があるとおもうんだけど、どうかな。
 with GRDII 2009/3/30撮影 六本木ミッドタウン
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by bbbesdur | 2009-03-30 23:55 | around tokyo

欅の優しさ

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 今朝、起きて郵便受けに新聞を取りに行くと、うっすらと顔を出したばかりの太陽が、ぐんぐんと雲を押しのけてゆく真っ最中だった。
 雲は切れ切れになったり、薄く筋状になったりしながら、這々の態で北東に吹き飛ばされていった。
 そんな雲が哀れで、近くの欅並木まで歩いて行って、カメラを空に向けたんだ。欅の枝先には若葉がほんのすこしだけ芽吹いていた。それを見たら、ちょっとだけ気分が晴れた。たぶん若葉の分だけ。空は鏡だからどうしてもこちらのこころを映してしまい、すこしも助けになってくれないけれど、樹々や生物はときどき優しい言葉をかけてくれるから頼りになる。
 空は大胆に霞みがかったいかにも春らしい青空に変身してゆくのに、ぼくは、ちょっとだけ晴れ、か。まあ仕方ないや。
 with GRDII 2009/3/29撮影 自宅付近
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by bbbesdur | 2009-03-29 17:31 | around tokyo

スターバックス水族館

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 おそらくぼくはかなり奥手だったんじゃないかと想像するけど、自分と他人がちがうということを発見したのは中学一年生のときだった。
 3DKの団地住まいのことで、ぼくは妹とおなじ部屋で寝ていた。妹は5歳年下だから、小学2年生だったはずだ。幼いころの妹には夜中に寝言をいって起き上がる性癖があって、当時から宵っ張りだったぼくはたびたび妹の言動に驚かされた。あるいは電灯を消した寝室で、ぼくの机の上にだけは煌煌と明かりが灯っていたから、ひょっとすると夜に鳴く都心の蝉みたいに昼間と勘違いしてしまったのかもしれない。
 なにより恐ろしかったのは母から、寝惚けた妹を「ぜったいに相手にしてはいけない」と釘を刺されていて、その理由が「死んでしまう」からだった。その怪奇な言葉にぼくは、夜中に妹が起きるたびにゾンビが起き上がったような気分になって、学習机の前で凍りついたものだ。
 ある夜、妹はふいに起き上がるとふらふらと歩いてぼくの方へやってきた。知らぬフリを決め込むぼくに妹はひとくさり意味不明なことをいって背を向け、そして部屋を出て行くかとおもったら、しばし襖の前に立ち尽くし、また振り向いて布団に横になった。ぼくは動悸のおさまらない胸に手をやって、怖いもの見たさに妹の寝顔を見つめた。そのときだった、妹がぼくの世界ではなくて、彼女自身の世界に生きているということがはっきりとわかったのは。
 翌朝、ぼくは真実を突き止めた手柄を母に自慢したが「あたりまえでしょう」と笑って取り合ってくれなかった。自分が妹とちがうことはたしかに「あたりまえ」だったが、自分と妹の世界が同一ではないことは、すこしもあたりまえではなかった。だってそれまでぼくは妹とおなじ世界で生きていたと錯覚していたから。
 それから37年が経過したけれども、ぼくはいまでもわからない。君とぼくの世界がちがうということが、どうしても実感として湧いてこない。スターバックスに坐ってコーヒーを飲んでいる人の数だけ世界があるなんて、どうしたって理解できない。あるいはいまこの文章を書いているぼくがいて、しばらくしてこの文章を読む君が、ぜんぜん知らないところでぜんぜん知らない生活を送っていることを「あたりまえ」とおもえだなんて、ぼくの母はきっと頭がおかしいのだ。
 宇宙はとてもおおきいから、ついついそれをひとつの世界と錯覚してしまう。でも世界はじつはぼくや君のちっぽけな頭のなかにしかないし、お互いに頭のなかを覗くことなんてできやしない。ぼくが死ねばぼくの世界はなくなるし、君が死んだら君の世界はなくなる。ややこしいのは、ぼくが死んでも、君の世界がなくならないことなのだ。だからつい世界というものが周囲に存在していて、自分がふくまれているとおもってしまう。世界が君を含んでいるんじゃなくて、君が世界を含んでいるというのに。
 死ぬときのことをいえば、自分だけが死んで、みんなは生き残るから寂しい、という発想はそもそもまちがった思考手順だし、なんだかしみったれている。君が死ぬときは世界が終わるときなんだ。堂々と世界を終わらせてやろうじゃないか。
 生物はひとつひとつが星のようなものだから、孤独であたりまえなんだとおもえば、すこしは気が楽になる。「おいおい、人間が星だなんて、ちょっと詩的にすぎないか」というのなら、たとえばいまこの写真を見て、おおきなガラス越しに、水底にへばりつく魚たちの群れを覗いているとおもってくれ。彼らと魚のちがいがどこにあるのか、ぼくに説明しておくれよ。魚のこころがわからないように、ぼくには彼らのこころがわからないんだ。沖縄の海に潜ったときに出会う魚たちとおなじように、彼らと赤坂アークヒルズですれちがっているだけなのに「ぼくたちは人間同士だから理解し合える」なんて、とてもいえないよ。
 with GRDII 2009/3/27撮影 赤坂アークヒルズ
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by bbbesdur | 2009-03-28 23:58 | around tokyo

エビそばの結論

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 この頃、お昼になにを食べたか、おもいだせないなんてことがよく起こる。ぼくとしては、おもいだせない程度のおいしさだったんだ、とおもって納得するか、それほどまでに記憶が衰えている、と判断するかの二者択一を迫られるわけだが、どちらもせつなくて決断できない。
 以前那覇に駐在していたころ、会議室でお弁当を食べ終わった年配の同僚石川さんがぽつりと「一日の愉しみが終わっちゃったな」と呟いたことがあった。もう20年近くも前なのに、ぼくははっきりとそのときの彼の言葉とそのニュアンス(待ちに待ったスターマインが夜空に散ったあとの空虚感みたいな)を覚えている。名言だとおもう。
 食はぼくたち人間の生命を支える重要な活動だからこそ、セックスとおなじように「愉しい」という余録がある、なんて話はもういいや、そう、今日食べたのは、エビそば、だった。おもいだせないほどの味というわけでもなかった。まあまあ、いけた。というわけで、結論が出た。
 with GRDII 2009/3/27撮影 赤坂
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by bbbesdur | 2009-03-27 22:25 | around tokyo

沈丁花の夜

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 ずいぶん昔、横須賀基地内で知りあった女性のアパートに行ったことがあった。桜がほころび始めた、いま時分の肌寒い夜のことだ。
 彼女は背が高く、いつも清楚な身なりをしていた。彼女の事務所の机の周囲にはいつも石鹸の匂いが漂っていて、明るい色のワンピースを着ていることがおおかった。だから彼女のアパートに足を踏み入れたときは驚いた。こんなことってあるんだなって、おもった。それから半年後に彼女は第7艦隊司令部に配属されたばかりの中尉と結婚し、やがてサンディエゴに去って行ってしまった。
 あれからぼくも歳を取った。彼女も歳を取った、はずだ。先日、ぼくはかつての日々を懐かしもうと、記憶をたどってアパートに辿り着いた。まさかアパートに彼女の姿を重ねるような残酷なことはしない。けれども、ぼくには他に彼女のことをおもいだす術がない。あるとすればあの夜、アパートの周囲に濃密に漂っていた沈丁花の匂いだ。ぼくはしばらく周囲を歩いて沈丁花を探したけれども、花なんてどこにもなかった。
 with GRDII 2009/3/24撮影 横須賀市内
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by bbbesdur | 2009-03-26 22:48 | around tokyo

サラリーマンに花を

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 電車に乗ってかんがえた。電車に乗っているときには、なにをかんがえているかな、って。8時過ぎに会社を出て南北線に乗っているときは、千代田線直通小田急多摩急行に間に合うかな、っておもっていた。時計を見た。ぎりぎりのタイミングだ。乗り換えの溜池山王駅から国会議事堂駅まで走るのはいやだな、とおもった。花粉用のマスクをしているから眼鏡も曇るし、だいたい仕事帰りに走るなんてどうかしている。でもぼくは走った。直通多摩急行は空いているから、吊り革につかまることができる、とおもったからだ。飛び乗った電車はこの時期にしては暖房が効きすぎていて、眼鏡は盛大に曇った。眼鏡が曇ったまま吊り革につかまっているのは、あんまり滑稽すぎる、とおもった。だからぼくはハンカチを出して、眼鏡を拭いた。吊り革につかまるとすぐにバックから携帯電話を取り出した。ちょうどいい時間のバスがあるといいな、とおもったからだ。けれど残念なことにバスを14分待たなくてはならないタイミングだった。駅前の書店はまだ空いているだろうか、とおもった。そして、そのときふいにぼくは、電車に乗っているとき、なにをかんがえているのかな、っておもったのだ。
 電車に乗っているときには、だいたいこんなことをかんがえているのだ、ということがわかって、ぼくはほとんど絶望した。
 with GRDII 2009/3/25撮影 鶴川駅前
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by bbbesdur | 2009-03-26 00:06 | flower

トランペット吹きの恋

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 わたしはいちどだけ立ち上がって歩いたことがある。
 7年前の2月14日、昼過ぎから冷たい雨が降り始めて夜になっても止まなかった。横須賀中央駅の改札口を出た人々は、一様に暗い空を見上げては憂鬱な顔をして傘をひろげた。
 東口正面にひとりの女性が立っていた。日が暮れるころに海の方からやってきて、一心に改札口を見つめつづけていた。すこしばかり想像力がある人なら、駅前に立ち尽くす彼女がこの日誰かに恋を告白しようとして、そして改札口に現れるはずの彼を待っているだろうということがわかったはずだ。けれども人々は自分のなかの憂鬱で手一杯で、他人に気を回す余裕なんてすこしもなかった。
 日付が変わって、もうバレンタインデーではなくなった0時51分の下り最終電車から降りてきた乗客のなかにも彼の姿はなかったらしい。最後の最後にふらつきながら出てきた酔っぱらいの中年男を確認すると、彼女は駅に背を向け、一直線にわたしの方に向かってきた。もう、傘はさしていなかった。彼女の頬を濡らしているのが雨なのか泪なのかわからなかった。全身を濡らし、短めのスカートの裾からは雫さえ垂らして、彼女はわたしの隣に坐って呟いた。
「あなたとおんなじね」
 わたしが、ぼくはだいじょうぶだけど、君は風邪をひいてしまうよ、というと、彼女は、
「いいのよ。もうからだなんてどうなったっていいんだもの」
 といった。彼女の悲しみはわたしのブロンズのからだに穴を空けた。冷たい雨がからだのなかにまで沁み入ってきて、そんなことは初めてだった。このままでは彼女はほんとうに病気になってしまう。そうおもいながらも、しかしわたしはいつもの姿勢のままじっとしていた。
 凍るように冷え切った彼女の掌がわたしの左腕を取ったとき、わたしは決心した。彼女は立ち上がったわたしの腕を取ったまま、不思議そうな顔ひとつ見せずに歩き始めた。
 初めて歩く横須賀の街は人通りも絶え、とても淋しげだったが、それでもわたしのこころは踊った。わたしは歩いているんだ。しかも女の人と腕を組んで。
 彼女はアパートの前で、ありがとう、といった。わたしはまたいっしょに夜道を歩きたい、といいたかったが、けれどもそれは許されないような気がして、こちらこそ、とだけいった。別れる間際、彼女はふいにわたしにからだを寄せて、頬におやすみの口づけをした。その途端、わたしの顔は鋳造前の赤熱した液体ほどの熱を持ち、夜空に向けたトランペットの灼熱の一吹きが、冷たい雨粒を温かいシャワーにした。
 with GRDII 2009/3/24撮影 横須賀
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by bbbesdur | 2009-03-24 22:08 | 短編小説

誓い

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 ほとんど毎日飲む。いや、ほとんどが不要なくらいに、毎日飲む。でも、量はそれほどでもない。缶ビールとおいしくない赤ワインを一杯だけ、と決めている。おいしくないことが重要で、わざとおいしくないのを買ってくる。おいしくないから一杯で止められる。それが重要。飲むのはほとんど自分の部屋で、ひとりで。相手は壁やMACや本がいればいい。それも重要。人と飲むと止まらなくなるから。
 逆にいえば、おいしいワインを、素敵な店で、こころ許せる友人と飲むと、止まらなくなってしまう。ことに友人が弟子屈なんていうさいはての地からやってくるとほとんど制御不能。いや、ほとんどはいらない。気分的に「オキナワ・ミーツ・ホッカイドウ・アット・トウキョウ」てなかんじになる。制御不能なぼくのからだは自動的かつ終着駅的に新宿2丁目かゴールデン街に到達する、ことになっているらしい。だから昨日(今日)は、弟子屈さんのせい。
 二日酔で午前中の半休だなんてサラリーマン失格だ。昔は「這ってでもこい」という上司がいたけど、そういえばAさん元気かなあー。と思考があちこちに飛ぶのも、二日酔の証。もちろん、いまは二度と深酒はしないとこころに誓っているし、今晩は一昨日に親父が持ってきてくれた自然薯と麦ごはんだけにする、といまは固くこころに決めている。
 with GRDII 2009/3/24撮影 新宿2丁目
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by bbbesdur | 2009-03-24 11:02 | around tokyo

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 御社のGRシリーズはフィルムカメラだったころから、ずっと気になってはいましたが、ついに購入する機会は訪れず、コンパクト機はCONTAXのTシリーズやオリンパスのμシリーズを使ってきました。GR1が市場に出てきたのは1996年で、GRDigitalが2005年ですから、フィルムカメラとしての寿命はおよそ10年だったわけですね。ぼく自身がデジタルに切り替えたのは、ニコンのF6に最後の寄り道をした後の2006年3月31日のことです。
 初めて買ったデジタルカメラはpanasonicのLumix FX01でした。理由はただひとつ、コンパクト・デジタルカメラではGRD以外に FX01しか28㎜の画角がなかったからです。ぼくに28㎜以外の画角は無用だし、できれば明るい単焦点がいい。ですから、かねてから評判の良い使い勝手はもとより、仕様上からいってもGRDこそ、ぼくの用途にマッチしていました。しかしながら、そのときぼくはまたもやGRを選ばなかった。というのも、ぼく側にややねじくれた事情があるからなのです。そのことについては後で触れることにして、いまはまず購入してから3ヶ月経ったGRDIIの感想を述べさせていただきます。
 おなじ製品であっても使用用途によっては、まるでちがった評価になってしまうから、まずはぼくの使い方を紹介させてください。
① 95%が街中でのスナップ撮影(東京の「街中」には光線に恵まれない地下道がおおく含まれている)。
② 出張がおおく、旅先でも使いたい。
③ 常にカメラを持ち歩いていないと不安(生きている気がしない)。
 といったところでしょうか。
 スナップ撮影こそ、GRがもっとも得意な領域であることは、もう語り尽くされたことでしょうからこれ以上繰り返しません。でも、速写性に関しては、他メーカーもそうそう負けっぱなしというわけでもないようです。一昨日も出張帰りに新宿西口のビックカメラに寄って、発売されたばかりのCX1と富士のF200EXRを触ってきましたが、富士もだいぶ速くなっている。ご承知のとおりFinePixF30ではピント合わせがスナップでは使い物にならないくらい遅いし、焦点距離を固定するようなマニュアル的ないっさいができません。高感度撮影での画像の品質はコンパクト領域ではいまだにベスト3入りするでしょう。でもピントと露出に手間取り過ぎる。街中でのスナップ撮影なんて、ハナっから視野に入れていない。というかそういう趣味性の高い分野は、フィルム(クラッセ)でやってください、という姿勢が濃厚です(ご存知のとおり)。そのあたりがこんどのF200EXRではだいぶ改善されている。あいかわらずの記念撮影最優先カメラであることにはまちがいありませんが、ともかく構えてレリーズするだけの完全オートという発想が徹底していて、顔認識の速度と精度にこだわっているがために、結果的に速写性が確保されているようにおもいます。じっさいに使ってみるとまたちがった感想が湧いてくるでしょうから、このあたりはまたいつか。
 いずれにしてもGRDIIの良さは、電源イルミネーターが消えたり、ディスプレイを一時的に消すことができたり、ふたつのMYメニューで頻繁に使う設定を簡単に呼び出せたり、Fnボタンの一押しでスナップモードにすることができたり、露出補正は専用ボタンを押さずに、直接調整ボタンを上下させればいいだけだったり、まちがってフラッシュを発光させることがありえない構造であったりと、撮影者を透明人間にちかづけるためのおもいつくかぎりの設定がぼくのような撮影者にはぴったりです。購入して、家にもどり、やや安っぽいエコパッケージを空けて、さまざまな設定をするたびに、ぼくは「うーん」「うーん」と低く声を出して唸りました。「こんなに使い勝手の良いカメラがあったなんて! それもリコーが出しているなんて!」と。
 富士フィルムという会社は歴史的に写真館や職業写真家が使ってきた中判大判カメラ文化が土台にあって、どうしても発想が肖像写真的、風景写真的なものから出発してしまうらしい。ぼくのような使用者のことはかんがえていない。でも、おなじ世代であっても風景派のおじさんたちには優しくて、いまどきの若者にはなんのことかもわからないVelviaとかProviaとかAstiaなんかのフィルムモードをサービスしたりはするからイヤになります。
 で、GRDIIの不満足な点です。
① 起動が遅い。スナップシューターならいつでも電源は入れっぱなしにしておけ、というアドバイスはわかります。ぼくだってほんとうは首からぶら下げておきたい。でもスーツにネックストラップはちょっとばかり異様で、やや目立ち過ぎるのです。だからといってレンズを出したままスーツのポケットに入れるわけにはいかない。ぼくがいちばん警戒しなくてはならないのは「変なおじさん」に見られることです。アラーキーみたいに徹底的に変なおじさんだと相手もあきらめたり、覚悟を決めてくれるでしょうが、ぼくのような半端者にはとても冷たい。それと起動ボタンがすこし奥に引っ込みすぎているために、ポケットから取り出しながら手探りでONしたつもりが、うんともすんともいわないで、チャンスを逃してしまうことがままあります。個人的にはpanasonicのスライド式のON、OFFスイッチが速写用のカメラによりふさわしいとかんじます。
② 起動時の音が耳障りである。(撮ってはいけないはずの)飛行機の離着陸時にこっそり撮るとき、前後の席の人が気になる。この限定されたケースではぼくが社会悪的存在であることは認めますが、でもスナップシューターは多少なりともそういった野蛮なところがないと生きてゆけない。草むらから飛びかかろうとする豹が、獲物が通りかかる直前に歯ぎしりするような音はいただけない。
③ 手ぶれ補正機能がない。スナップは一瞬がすべてだということは釈迦に説法でしょう。ただ半端者のぼくとしては被写体によっては怖くて腕が震えることもあるから、できればぼくの腕をしっかり支えていて欲しいのです。
④ 0コンマ数秒だけれどもレリーズラグが気になる。これは一眼レフではないことを承知しながら無理をいいますが、でも夏にはオリンパスのマイクロフォーサーズも出てくるらしいし、がんばって欲しい。
⑤ Fnボタンが足りない。もうひとつ欲しい。
⑥ MYメニューも足りない。もうひとつ。
⑦ 消灯モードでも、撮影直後にディスプレイが点灯してしまう。撮影したときにもいっさい点灯しないようにしてほしい。インターバル撮影でも、結局ディスプレイが見えてしまえば警戒されます。ちょっとばかり中途半端なのです。
⑧ マルチAFがフォーカスポイントを選択するときの根拠がわからない。最短距離なら最短距離、人物なら人物を優先する、というようにはなっていない。すくなくともぼくの個体はなぜか左側にある被写体を選ぶ確率が高いし、選択した根拠が不明です。なんだか騙されているみたいで「そうかあ、マルチ商法のマルチかあ」なんていってみたくなってしまいます。じっさいちょっとひどすぎる。カメラ個体による不具合かもしれないけれども、それならば品質管理をがんばって欲しい。
⑨ 高感度での画質がだめ。ISO400からしてすでに不満。東京は地下道がおおくて、どうしても暗いシーンがおおいのです。まあこのあたりは発売して1年以上経つので仕方ないとはおもいますが。
 以上がぼくがかんじているGRDの数少ない不満点、というか贅沢な悩みです。もしかしたらぼくが知らない設定があったりするのかもしれませんが、悪しからず。あんなにちっちゃな体躯で、ここまでがんばっていること自体が脅威ですが、でも今後もしGRDIIIを出すのであれば、CX1のような新機能はありがたいとしても、GR1の時代からたゆみなくつづけてこられた基本性能のブラッシュアップの方により期待します。こんな地道なことをつづけているメーカーなんていまや他にありませんものね。
 それで、話を元にもどして、ぼくがいままでGRを敬遠していた理由ですが、じつは御社はぼくの経済活動の場における永年の競争相手なのです。1981年に日本のF社と米国のX社の合弁企業であるところのFX社に入社し、以来28年間、ぼくはオフィス機器の営業畑で御社やキャノンとの競争に明け暮れてきました。競争相手よりも自社製品の方が優れていると信じなければ、営業という職業はやっていられませんから、会社に対するロイヤリティーなんて微塵もないぼくでさえ、競争相手の製品には手を出せない心理的圧迫があります。会社側にではなく、ぼくのこころの底に溜まった苦いアクのようなものが、ぼくをその気にさせなかったのです。
 写真雑誌でGRのレビューを読んだり、撮影された写真を見たりするたびに、ぼくは唸りました。幸いキャノンはコンパクトカメラの領域ではぼくの興味を引くような製品はありませんでしたが、おなじく競争相手のミノルタはTC-1を一旦注文して、取り消したこともあります。
 デジタルになったGRのときも、おもに価格を理由に気持ちを断ち切りました。こんなに技術革新のスピードが速い世界でこの値段はないだろう、と。「リコーさん、オフィス機器であんなに値引かずに、カメラでもっと値引きなさいよ」といいたかったわけです。でも、たとえFX01とGRDがおなじ価格であっても、おそらくそのときのぼくは御社の製品は買わなかったような気がします。
 そんなぼくがGRDIIを買う気になった最大の理由は、御社の営業の方と個人的に親しくなったから(だとおもいます)。鬼畜とおもって殺し合っていたアメリカ人が、とても優しい人々とわかったときのような感動とでもいうのでしょうか。
 御社のEさんはパールハーバーでカストマーが主催したプレゼンテーション会の後、車のないぼくをレンタカーでホテルまで送り届けてくれた上、夜の合同夕食会までの中途半端な時間をいっしょにドライブしようと誘ってくれました。以前からぼくはEさんが良い人物であることをカストマーから聞いて知っていたので、朽ち果てた倉庫のような妙なところに攫われ、あげくに抹殺されてしまう、といった危惧はありませんでした。
 ぼくたちは一時的に停戦協定を結び、ホノルルから海岸線沿いにハナウマ・ベイのすこし先まで走りました。岸壁から海が見下ろせる展望ポイントがあって、車を降りてスーツ姿のまましばらく風に吹かれていました。波は勢いよく浜に打ち寄せていて、入り江になったあたりから地元の若者らしき数人のサーファーが沖に向かってパドリングしてゆきます。
 ぼくたちは無言のまま彼らの光る背中を見つめつづけました。やがてじゅうぶん沖に出たひとりが立ち上がって、見事なバランスで波に乗ったのです。それは見ているこちらの胸がすくような鮮やかさでした。ぼくはため息とともにEさんを振り向いた。彼はぼくの顔を見て、微笑み返し、また海に目をもどした。ぼくたちはノルマンディーでもなく、ガダルカナルでもなく、硫黄島でもない美しい海原を眺めながら、そのときお互いをとてもよく理解していたとおもいます。つまり、ほんとうはぼくたちには、ちがいなんてなくて、まるでおんなじなんだ、ということを。
「親しくなった」といっても、じつはこの程度のことなのです。もちろん翌日には戦闘は再開されました。でも「この程度のこと」が、ながらく競合メーカーの製品を気分的に排除していたぼくのこころを開かせたような気がするのです。じっさい、他には御社の製品を買う気になった理由が見当たりませんし、あいかわらずキャノンの一眼レフについては良いことはわかっていてもほとんど敵対視しています。
 で、じつはそのあと、いちどだけEさんに電話をかけました。
「あのー、GRDII、そちらの社販で安く買えませんか?」
 どうしても安く買いたいというわけではないのですが、営業の世界にながいと、つい原価や流通コストを差し引いた(かなり安い)価格のことをおもってしまうのものなのです。Eさんは「なぜかヨドバシとかビックの方が安いんですよねえ」と答えて、ぼくは以前自社の社販で買ったFinePixF30の価格をおもって納得しました。
 というような、ながながしい個人的事情は、ぼくが記したGRDIIについての感想とは、ひとまず関係のないところにあります。でも物に対する愛着はどうしたって人の記憶に直結しているから、やっぱり甘口の評価になっちゃったかもしれません。アレで甘口かよ、とおっしゃられるかもしれませんが、良いと信じているから、さらに良い物を作ってほしいからこその発言です。放言お赦しください。
 お互い、このどん底の景気のなか、なんとかがんばって生き抜いてゆきましょう。ご健闘を祈ります!
 with GRDII 2009/3/20撮影 京浜急行
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by bbbesdur | 2009-03-22 16:11 | camera

暗雲の到来

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 春、那覇から羽田へ向かう窓の外に見えているのは空と海と雲ばかり。冬には稀に南風が吹くことがあって、そんなとき飛行機は南に向かって離陸するから、左側の座席に坐れば、かなりの低空で沖縄本島の東海岸をつぶさに見ることができる。昼間だったら辺野古沖に目を凝らせば、ジュゴンが見えるかもしれないし(?!?!?!?!?!)、 夜のフライトだったら沿岸に広がる菊畑の照明がとっても美しい(100%保証!)。着陸前の最後のおまけに雪を頂いた富士山も見える。
 でも春は空気も霞んでいるし、航路も大半は太平洋上だから、島や陸の影を見ることはない。それでもぼくはぜったいに窓際の席を予約して、空や海や雲を眺める。ほとんどずっと窓の外を見ていて、沖縄でのことをおもいだしたり、東京へもどってからのことをおもう。明るいことも、暗いこともある。それが人生だ、なんていって自分を慰めるには、いま雲は厚く黒く垂れ込め過ぎているし、青い空や白い雲を眺めていると気分が晴れ晴れとしてくる、なんていう自分への嘘にはもう騙されない年齢になってしまった。身辺にとびっきり分厚い暗雲が立ちこめているこのごろ、ぼくにできるのは、暗雲こそは最高のシャッターチャンスであることをおもいだすことのほかにない。
 with Nikon F6 AF-S VR ED24-120 Velvia 2005/5撮影 那覇
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by bbbesdur | 2009-03-21 23:29 | okinawa