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「スーパー白鳥1号」で三沢を出たのが午前10時半、函館で「北斗11号」に乗り換え、札幌でオホーツク7号に乗り換えて、旭川に到着したのは19時すこし過ぎだった。旭川駅の駅舎を出たとき、街はたそがれの真っ只中に薄紫色に染まっていた。
 駅舎正面に立って、ぼくはしばらく、緩い下り坂の向こうにまっすぐつづく一本道の美しさに見とれた。街並みがとくに美しいわけではない。いまどきのあたりまえのビルがあたりまえに立ち並んでいるだけのことだ。けれども一本道はどこか孤高に延びていて、ぼくに街の主役が建物ではなく、道であることを伝えてきた。
 ぼくは広い街路に無造作に並んでいるベンチに腰掛けて、しばらく空を眺めていた。やがて空から色が消え、ぼくは立ち上がって宿に向かった。宿で地図をもらって、宵の口の街を歩き回った。ぼくのような旅人を気軽に迎え入れてくれる居酒屋はないかな、とおもいながら、入り口の暖簾を分けたり、扉から店のなかを覗いてみることを繰り返した。
 いずれビール1本と地酒1合、それに酒の肴をせいぜいふた皿くらいのことなのだ。けれども酒場でこそ街や人の歴史がわかるとぼくは固く信じ込んでいるから、店の選定はかなり慎重になる。旭川は手強い、と弟子屈の鱒やさんからの事前情報もあった。こころして選ばなくてはならない。
 カウンターがあることが必須の条件で、すでに地元の人らしき数名が坐って、愉しげに語らっていてくれれば、ほぼ完璧だ。これまでの愚かしい過ちの繰り返しから、観光ガイドに載っている店がまずは候補外とかんがえていいことは学習した。しかしこのごろは観光ガイドなんて買わないから、それもわからない。経験による勘だけが頼みだ。
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「天金あきを」の扉は開け放たれていて、暖簾越しに覗くとカウンターに2、3名の先客がいて、手前の椅子に女将らしき女性が腰掛けて新聞を読んでいた。気取らないところがいい、そうおもって勢い良く暖簾を分けた。
 アブラボウズという魚を焼いてもらい、マガレイを揚げてもらった。旭川は北海道のヘソだから海なんてどこにもないのに、魚はとてもおいしかった。
 店の主、信田昭男さんはカウンター越しに、やや酔っぱらってきたぼくの写真を撮った。そんなの初めてだ。やがて信田さんはぼくの隣に坐って、ビールを飲み始めた。ご自身の病気のことを話された。ぼくは東京や沖縄の話をした。そしてお互いの息子についての話をした。溜息をついたり、苦笑し合ったりして、たぶんお互いを慰め合っていた。
 ぼくがやや長居をしすぎているようにおもって腰を上げたとき、彼はとても残念そうな表情をした。
「北海道はほんとうに暮らしやすいから、引っ越してくるといいよ」
 ぼくは沖縄に浮気することはできないから、正直にそのことをいった。他人に恋人について語るときのような面映さがあった。
「そうか、しかし沖縄は暑いだろうに」
 というから、ぼくは、
「北海道は寒いじゃないですか」
 と返し、ふたりで笑い合った。遠く沖縄から離れて沖縄を語るとき、ぼくは自分があの島をいかに愛しているかがよくわかる。
「まあいいか、写真を送るから住所を教えてよ」
 東京に帰ってから数日して写真の入った封書がとどいた。ぼくは営業経験がながいから、それが営業的行為であるかどうかなんて、すぐわかる。信田さんは、ただこころからぼくを歓ばせようとして、写真を送ってきたのだ。
 同封されたメモはカレンダーの裏紙を利用したものだったし、封筒はガムテープの切れ端で申し訳程度に封されているだけだった。まるで店の佇まいとおなじく、気取らず、まったくの自然体で。
 机に向かっていたぼくが手紙から目を上げると、そこに、夕暮れにひっそりと佇んでいる駅前の一本道と信田さんの店がふいに立ち現れた。
 with GRDII 2009/7/16撮影 自宅、2009/7/10撮影 旭川
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by bbbesdur | 2009-07-16 21:03 | series

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 初めてのひとり旅では北海道を一周する計画だったが、アルバイトで溜めた予算は網走で尽きた。札幌に帰省しているはずの後輩の女の子に電話した。
——帰りの列車賃がなくなったんだ。夏休み明けに返すから貸してくれないか?
 待ち合わせた場所はなぜか夜のススキノだった。かつ、なぜか彼女の母親がいっしょだった。ビアホールに行って、ブーツの形をしたグラスでサッポロビールをたくさん飲んだ。うっかり靴先を上にして飲むと、パコッ、と音を立ててグラスからビールが飛び出し、顔にかかった。後輩はなんどもおなじ過ちを繰り返すぼくを笑った。
 彼女も母親もほんとうによく飲んだ。母親はその勢いでぼくたちに訊いた。
——ねえ、あなたたち、ひょっとしてお付き合いしているの?
——まさかあー!
 彼女はこころからおどろいたようで、ぼくにはそれがすこし残念だった。ぼくは気を取り直してさらにビールを飲んだ。娘がぼくのような男と付き合っていないことに安心したのか、母親はぼくにこういった。
——あなた、ひとり旅はいいけど、帰りの汽車賃がなくなったからって、後輩の女の子にお金を借りるなんて、まるでなってないわねー。そーゆーのは、ひとり旅っていわないとおもうな。
 酔っぱらってきた母親を見て、後輩はぼくにすまなそうな顔をした。けれどもぼくは母親のその言葉が身に沁みた。北海道をヒッチハイクで旅したことを友人に武勇伝のように語ることは止めよう、だれにもいわないことにしようとこころに決めた。
 それから28年後、自分の息子が当時のぼくと同い年となって、ひとり旅に似たことをやってはいる。
「おとうさんが、オマエくらいの頃はなあ・・・・・・」と語りたくてならないけれども、親の昔話が子供たちのこころに響かないことも、当時のぼくをおもいだせばわかることだ。
 with GRDII 2009/7/9撮影 苫小牧駅
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by bbbesdur | 2009-07-15 19:02 | series

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 ぼくが初めて北海道を訪れたのは、21歳のときのことだ。上野駅から夜行の急行八甲田に乗った。ひとりで旅に出ないといけない、そういった切迫した気持ちに押されるように選んだ先が北海道だった。
 キスリングと呼ばれた横長のおおきなリュックを友人に借りた。Tシャツ、ジーンズにキスリングが北海道を目指す青年の正装だった。夏になると本土から大量に渡ってくるそんな青年たちを、地元の人は「蟹族」と呼んでいた。
 青函連絡船に乗りこんだとき、演歌の故郷にやってきたような気がして、なんだか意味もなく気恥ずかしかった。
 ユースホステルを渡りあるき、ヒッチハイクをした。朝方、積丹の国道に立って手をあげていると、銀色のスカイラインが止まった。リーゼント頭のツッパリの若者たちが乗っていた。ぼくは怯んだ。男ふたりに、女ふたり。ぼくより年上に見えた。
 ぼくは失敗したなとおもいながらドアを開けた後部座席の彼女の脇に坐った。
——海に行くつもりなんだけど。
 ぼくは、そこでいい、と答えた。
——海で遊ぶのよ。
 車内の4名はちいさく笑った。ぼくにその笑いの意味は不明だった。
 彼らが目指した海岸は積丹半島の突端にあった。彼らは海には入らずに砂浜で貝殻やらなにやらを拾っていた。とても散漫な動作だった。遊んでいるようには見えなかった。ぼくは、礼をいって、先を急ぐ旨を伝えた。
——なんだ、いっしょに遊んでいくのかとおもってたのに。
 リーダー格の男からそういわれて、ぼくは申しわけなくおもった。とうとうぼくには最後まで彼らがなにをして遊んでいるのかがわからなかった。
 それからまた車を拾って、小樽に出た。最初に乗せてくれたのはひとりの老人だった。農作業へ向かう途中らしく、ちかくの街まで乗せてくれた。道中、彼は、ひとりで知らない人物の車に乗ることの危険をかなり念入りにぼくに語って聞かせた。
 街のガソリンスタンドで老人は知り合いらしい中年の女性に、「この人を小樽まで乗せていってくれないか?」といった。スカーフをしたその女性は、なにも訊かずにただ「ええ、いいわよ」といって、ぼくを小樽まで乗せてくれた。
 with GRDII 2009/7/10撮影 函館本線
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by bbbesdur | 2009-07-13 19:54 | series

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 スーパー白鳥1号は蟹田を過ぎて青函トンネルへと向かう。車掌が変わるというアナウンスがあって、変わった車掌には北海道のイントネーションがある。
 空は曇り空。うっすらと明るい灰色のなかに、たくさんの黒い雲が浮かんでいる。
 車両のなかに青函トンネルの詳細がアナウンスされる。
――全長53.85キロ。鉄道用の海底トンネルとしては世界最長の長さを誇ります。トンネル最深部は海面から240メートル・・・・・・。
 案内を聞いていると、観光列車に乗っているような気分になる。
 車両のなかのデジタル案内板にトンネルの名前がつぎつぎと現れる。大平トンネル、津軽トンネル、大川平トンネル、第1今別トンネル、第2今別トンネル、第1浜名トンネル、第2浜名トンネル、第3浜名トンネル、第4浜名トンネル。
 車両のなかに、いまか、いまか、という、期待のような空気が満ちている。
 そしてついに<次が青函トンネル>という文字が現れる。その直後、車内は真っ暗になり「ゴー」という音とともに<青函トンネルに入りました>という赤いデジタル文字が流れる。
 下り坂だからだろうか、電車はぐんぐん速度をあげている。
<次は木古内、ただいま竜飛海底駅付近を通過中です。最深部には青と緑のランプが点灯しています> 
 つづいて父親殺害の青年のニュース、パチンコ店放火の男の供述がテロップでながれる。ぼくたちは憂鬱な時代を生きている。まるでトンネルのように暗い時代を。
 車内になにかを期待する空気がある。平らになった感覚があって、みんなきょろきょろするが緑と青のランプがない。
<ただいま吉岡海底駅付近を通過中です>
 どうやらぼくの乗る車両の乗客全員が緑と青のシグナルを見落としてしまったらしい。そんなことってあるの。ぼくは車両の左右に緑と青の盛大なイルミネーションが連なる瞬間を待って、カメラを構えて待っていたのだが。
 列車は上り坂に向かって平らな部分を勢いよく駆け抜ける。
 上り坂だ。飛行機が離陸するときのように列車が傾いているのがわかる。この感覚は列車では初めての経験だ。
 ときどきものすごい騒音がする。雷が鳴っている雨の夜のような。ぼくは海底にいるのだ。
 海水が怒濤のようにトンネルに流れ込んできているような錯覚があって、ちょっと怖くなる。とおもっていたら、突然車内に閃光がゆきわたるように明るくなって、わっ、と一気に外に出た。北海道だ。
 with GRDII  2009/7/10撮影 函館駅
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by bbbesdur | 2009-07-12 21:20 | series

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 わかっているよ、君の気持ちは。富士山もいってたけど、昨日の雲隠れの一件だって、本心じゃないことはわかってる(通夜のときの写真みたいに使ってしまって、富士山ちょっと怒ってたけど、さくらさんのためなら、しかたない、っていってた)。
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 別れなくてはならない理由はいろいろあるけど、なによりも、やっぱり人間と植物の恋は許されないことだとおもう。「そんなことないわ!」って君はいうだろう。でも、じっさい世の中にはやってはいけないこともある。あの晩、人目を忍んで君を抱きしめたぼくは、君のからだの意外な暖かさに驚いたものだった。ひょっとしたら、この恋は成立するかもしれない、とさえおもった。ぼくはたまたま人間という生物に生まれてきて、君たち植物とはまったくちがった生をおくっているように見えるけど、じつはあんまり変わらないんだなともおもった。生のために、生がある、とでもいうのかな、その点ではなんにもちがわない。子孫を残そうと、ひっちゃきになるところもぜんぜん変わらない。こっそり隠れてするぼくたちより、白昼堂々とやってる君たちのほうが、すこしばかり派手だとしても。
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 でもかんがえたんだ。まあ、もしやれというなら、ぼくだってこっそりではなく、昼の日中に君を抱くこともできる。でも歩く桜ができちゃったらこまるだろう。人間だってどこでお花見をしようかと、春になったらまずは桜の行方を探すことから始めないとならなくなるし、だいいちぼくらの間にできるだろう桜子がかわいそうだ。
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 小学校に行くようになって「ねえ、お母さん、お父さん、わたしどっちにいればいいの?」って問われたら、君はなんと答える? 君は「校庭の端に立っているのよ」と答えるだろうし、ぼくは「教室のなかにいなさい」と答えるだろう。
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 そんなしかめっ面するなよ。美しい顔が台無しじゃないか。
 えっ、なんだって?
 わかったよ、きっとそうする、いや約束する。君の脇を通りすがったときに、きっと挨拶をする。「おはよう」という、「元気かい?」と声をかける。「きれいだよ」と囁く。たしかにこれまでぼくが勝手で都合が良すぎたことは認める。花を咲かせたときだけ「いやー、美しい」とか「やっぱり日本人は桜だ」とか「いっしょに呑もうよ」とか、いわない。「あれ、こんなところにいたんだ」なんてことにならないようにする。春が過ぎて新緑になったときも、夏の盛りに君が蝉につきまとわれているときも、秋になってまだらに紅葉するときも、冬、ひときわ寂しく君が立っているときも、これからはぜったいに無視したりしない。君を見つづける。約束する。それは信じてくれていい。
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 なあ、もう、泣くなよ。別れ際の潔さを日本人に教えてくれたのは、君だったじゃないか。
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 最後にぼくの一番好きな君の写真を載せる。きっとこれからも毎日君を見ている。また来年、会おうね。さようなら。
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with GRDII 2009/4/10 撮影 錦帯橋、東和町、2009/4/5 撮影 自宅付近
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by bbbesdur | 2009-04-11 00:10 | series

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 どうしてかな、フォトストレージのサーバーにつながらない。突然の出張で手元に手持ちの桜の写真がない。困った。なんでCherry Momentの最終日にこんなことになるんだろう。もしかすると桜が別れを嫌がっているのかもしれない。
 さくらさん、わかったよ、今日のところは、君とおなじく日本を代表する富士山に臨時の代役を頼むからいい。あんまり目立たないように白黒にする。きっと明日はお別れだよ。そりゃあ、ぼくだって別れたくはないさ。でも、それはもう決まっていることなんだよ。
 With GRDII 2009/4/9 撮影 富士山上空
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by bbbesdur | 2009-04-10 00:03 | series

 通勤電車の窓を流れる桜並木を撮りながら、ぼくはふいにYのことをおもいだした。大学時代からの友人で、こころから親友と呼べるただひとりの男だ。
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「なあbbbesdur、今年の桜は色っぽいとおもわないか?」
「色っぽい?」
「ああ、なんだかいつもの年より色が濃いようにおもうんだ」
 もちろんYはぼくをbbbesdurとは呼ばないで、XXXXと呼び捨てにする。ぼくたちはかつて音楽サークルに所属していた。ぼくのbbbesdurは彼の命名だ(bbbは「ビー」が3つじゃなくて、「フラット」が3つで、esdur「エスドア(変ホ長調)」の楽譜上の記号なんです。ぼく以外の人には、まったくどうってことのないばかばかしい符牒だけど、ぼくの好きな曲に変ホ長調がおおいことを発見したのが彼だったのです)。ちなみにブランコに乗っている人は知らない人です。
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 昨日のお昼過ぎ、ぼくはYに電話した。2、3ヶ月ぶりだとおもう。ぼくはYが誘いを断らないことを知っている。
「花見に行かないか?」
「いいね」
 酔狂な突然の誘いに、なにも訊かずに乗ってくれるのは、Yだけ。
「どこがいいかな?」
「千鳥が淵は?」
「あそこは桜はいいけど、落ち着いて酒が飲めないだろう」
「そうか、酒が飲みたいのか」
「そういう気分かな」
「だったら上野だ。気が向いたときに樹に昇っても目立たない」
「樹に昇るヤツがいるのか?」
「あそこはそういうところだ。樹に登った姿のまま、隣りの動物園で暮らすという選択肢もある」
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 ぼくたちはJR上野駅中央改札で待ち合わせた。一番搾りのロング缶を4本と八海山の750mmを1本、それに砂肝の唐揚げとシュウマイとイカの炙り焼きとネギトロの太巻きを買った。
「ほら、サクラ、サクラ。いいかんじだ、早く撮れよ」
 Yはだれかを待っているらしい、ひとりの女性を指差した。
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「ライトアップされた桜は下品で好きじゃないな」
「オマエは昔からいちいちうるさいんだよ、bbbesdur]
「だって、これじゃ桃じゃないか。昼見たらこんな色してないだろう」
「しだれ桜はこんなもんだよ。いいからさっさと写真撮れって」
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「満月だぞ。桜と対であれを撮れ」
 Yはかつて出版社で編集者をしていた。
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「キスしてる」
「あら、まっ」
「撮らないのか、オマエこういうの好きじゃないか」
「桜がないとね」
「あるだろう、カップルの上に、造花みたいのが」
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「なんだい、いったいこの明るさは!」
「裏にテニスコートがある。防犯とかいろいろで、警察から協力要請があるんじゃないのか?」
 ぼくは先週日比谷公園で見た桜をおもいだした。あのときテニスコートにプレイヤーはいたが、ここにはだれもいない。ただただ猛烈な光線が煌煌と無人のテニスコートに降り注いでいるだけだ。
「なんだか彼岸の宴会みたいだな」
「お彼岸は過ぎただろうが」
「ちがうよ、彼岸にいる人たちの宴だ」
「怖いこというねえ、bbbesdur。しかしそれにしてもエコの時代に、こりゃあかなりの電力消費だな」
「桜発電かもしれない」
「なんだいそりゃ?」
「桜の力は凄いからな。あれだけの花をいちどきに咲かせるんだ、根っこにちょこっと細工をしたら、ライトのひとつやふたつは軽く点灯できるはずだ」
「いつだってオマエの発明はカガクじゃなくて、ブンガクだから金にならないんだよ、bbbesdur」
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「どうだ、ちかごろは?」
「変わらないな」
「そっちは?」
「まあ、変わらない」
「オレはいいけど、Y、オマエこれから先どうするつもりなんだ」
「宮崎に帰ることもかんがえてる、このままじゃな」
「オマエ、いつもそういってるな」
「そうか?」
「ああ、ずっといってる。このままじゃなあ、って、学生のころから」
「そうか」
「ああ」
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「もう一軒行こうぜ!」
「おいおい、今日はまだ一軒も行ってないってばーよー」
「なんだい、そのできそこないの沖縄弁は?」
「酔っぱらいにはウチナーグチがよく似合う」
「ぜんぜん意味フメー」
「意味フメーでない酔っぱらいは酔っぱらいではない。だからいまのオレはきわめて正常」
「ぜんぜん、センジョーじゃなーい、ぞー」
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 御徒町で山手線に乗った。Yは東京駅で降り、ぼくは新宿で降りた。Yが宮崎にもどることはないだろう。来年もYとふたりで花見ができるといい、とおもった。
 改札口に貼ってあったポスターがぼくの酔眼に留まった。弘前、角館、北上。そういえばrikoさん、東北の桜はまだこれからだ、とコメントに書いていたなあ。行きたいけど、でも、桜と別れ難くて北へ北へと渡っていくと、いよいよ別れが辛くなるよ。止めておこう、また来年会えるじゃないか。
 明日はCherry Moment最後の日か。
 with GRDII、NikonD700/Nikkor28mm 2.8D 2009/4/8撮影 小田急線柿生⇔新百合ケ丘間、上野駅、上野公園、御徒町
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by bbbesdur | 2009-04-09 14:10 | series

 東京のフォトグラファーの皆さん、今年の桜はちょっと稀に見る美しさではないですか? 桜の時期はぼくも皆さんとおなじく、毎年、息も絶え絶えになって連日写真を撮りつづけますが、こんな年は近年記憶にありません。なによりも開花した瞬間に寒さがやってきて、いわゆる花冷えになって進行がフリーズしたのが良かったようにおもえます。満開前後の寒さは花を散らすだけだし、大陸から低気圧がやってくるタイミングにハマると去り際の強い風がすべてをおじゃんにしてしまう。春と桜は仲良しのようでいて、存外に歩調が合わないものですが、今年は桜がすっぽり春のエアポケットに入ってしまっている。桜を撮って夜がきて、春靄とともに朝がきて、桜を撮って日が暮れる、といったかんじです。風が強く吹く日もなくて、満開の桜は、花弁そのものの重みで落下しているように見えます。
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 このしだれ桜は近所の家の軒先にあって、毎年撮りたくて撮れなかった桜のひとつ。交通量がとてもおおい狭い道路のカーブの頂点に覆い被さるように咲いていて、普段は危険でまさか真下になんて立てない。今年こそはとおもいきめ、朝4時半に起きた。やうやうしろくなり行く山ぎは 少しあかりて の時刻、しだれ桜は妖艶な寝姿で眠っていた。
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 起きた勢いでそのままスーツに着替えて、電車に乗った。新宿西口公園で逆光の朝日で高層ビル群を狙うつもりが、突然おもいついて東京タワーに変更した。東京タワーはぼくと同い年の生まれだから、お互いの50歳の記念にとおもって。坂の途中に立つ桜の枝の下から朝日がやってきた。桜とぼくの頬が赤く染まった。もちろん東京タワーも。
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 六本木ヒルズ脇にあるお稲荷さんのちいさな境内で。これは雀がくちばしで切った花弁。花の密を吸うらしい。昆虫写真家の海野和男さんのblogでも先月紹介されていたけれど、昔の雀はこんなことはしなかった。ちかごろの若い雀は風情がなくて困る。
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 これは朝日がやってきて、桜がラジオ体操をしているように見えた瞬間。
 六本木ヒルズの住居棟をぐるりと囲っているのはさくら坂。桜はまだ背も低く幼いし、ビルに囲まれていて環境が良いようには見えないが、手入れが行き届いているせいかとても健康に見える。そう遠くない将来ここも東京桜名所になるだろう。
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 この時期の東京はマネキンだって、こんな色。まさか桜の化身だなんていわないけれど、夜出会ったら、ちょっとだけそう信じて、ついて行くかもね。
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 手前のは大島桜だから当然としても、染井吉野にもそろそろ葉っぱが目立つ樹が増えてきた。青山墓地には老桜がおおいけれども、なんたってここはお墓だから心配することはない。やれるところまでやって、そのままぶっ倒れてくれていい。
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 もうすぐお別れだとおもうと、やっぱり寂しい。
 with GRDII 2009/4/7撮影 自宅付近、東京タワー、六本木ヒルズ周辺、青山墓地、赤坂アークヒルズ
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by bbbesdur | 2009-04-08 00:26 | series

「花咲き、花散る夜も」と花の東京が藤山一郎によって高らかに歌われたのは戦前のことで、そのときからこの都会はこんなにいっぱいの桜で溢れていたのだろうか。
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 朝、家を出たぼくは、すこしばかり迷いながらバスに乗った。金曜日の新宿御苑の混沌が頭から離れなくて、昼休みにどこへ行って桜の写真を撮ればいいか、決断がつかなかったのだ。もともと東京都心には桜の名所がおおい。おおすぎるほどだ。おもいつくだけでも代々木公園、新宿西口公園、千鳥ヶ淵、上野公園、小石川後楽園とか、いやいやまだまだある、芝公園、駒沢公園、浜離宮、靖国神社、六義園・・・・・・、きっとまだまだいっぱいある。
 バスを降りて駅前に歩いて行ったぼくを迎えてくれたのが、上の写真の桜並木だ。なーんだ、こんなに近くに見事な桜があるじゃないかあ。
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 昼時に桜の樹の下でシートを広げて食べるお弁当はいいものだ。春の陽を浴びながら、ときどき桜を見上げるだけで、なぜか人々の姿から生命感がにじみでてくる。六本木交差点近くのこのちいさな公園にはベンチにホームレスの女性、ブランコにはふたりの男、奥の桜の樹の根本には寝ているふたりの作業員、そして手前に学生の集団、おまけとして3匹の鳩がいたけれども、桜の傘の下にあったのは近頃の東京ではめったに味わうことのできない緊張感のない空気だった。
 すくなくとも桜には人のこころを弛緩させるなにかの要素がある。そういった意味で、たとえば1300万人総心身症のこの東京に「もっと桜を、計画」というのはどうだろう、石原さん。オリンピックなんてしなくていいから、その予算でもっともっと桜を植えてよ、都庁が見えなくなるくらいでっかいヤツを。一目見ただけで、ストレスがぶっ飛んじゃうようなヤツをさ。
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 赤坂アークヒルズ周辺の桜もだいぶ有名になってきて、訪れる人も増えてきた。なにより桜を上から眺められるのが珍しくていい。こんな日にはバイクのふたり乗りなんかも、愉しいだろうな。
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 タクシーの乗客の歓声さえ聴こえてきそう。それにしても花弁はあんなに薄いというのに、こんなに黒々とした影を落とすとは、桜も芸が細かい。
 桜は冬と春の境に立っていることで、まずは春の使者として人々から歓迎される。計算づくの立ち位置が絶妙すぎる。そして、機が熟すや全身を打ち震わせるようにして盛大に咲く。振り仰げば淡い色の花弁、目を落とせば黒々とした影という絶妙なコントラスト空間に人々は酔う。やがてはらはらと泣くように散ってゆき、人々に惜しまれつつ「また来年もきっとお会いしましょう」なんていって舞台を去ってゆく。寒い時期ゆえ観客もまばらな前座の「梅」や、華やかながらも咲く時期が桜と重なって主役になりそこなった共演者の「桃」からは、さぞかし怨まれていることだろうとおもう。
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 昔から花見の場所取りは若い男の役割ときまっている。ぼくが新入社員だったころは花見の日になると、上司や先輩から「オマエの使命は場所取りだから、ほかの仕事はいっさいしなくていい」といわれて、コピー用紙の箱とかをたくさん持って昼過ぎには出かけて行ったものだった。
 しかしいまどきの若者は場所取りをしつつ、同時にモバイル環境下のラップトップPCで仕事もしなくてはならないらしい。じつに嘆かわしく、余裕のない哀れな時代になったものである。
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 明るいうちに帰宅したぼくの両目にはうっすらと桜色のベールがかかっていた。それなのに桜は攻撃の手を緩めることなく、これでもかとばかりにバス停の奥にこんなダメ押しの並木を用意してぼくをノックアウトしたのだった。
 東京は花の都なのでした。
 with GRDII 2009/4/6撮影 こどもの国駅前、六本木交差点下の公園、赤坂アークヒルズ歩道橋、自宅付近
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by bbbesdur | 2009-04-06 22:06 | series

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 新宿御苑の桜に門前払いを受けた日の夕暮れ、ぼくは銀座にいた。数寄屋橋交番脇の桜を目指したのだが、到着したのが遅すぎたし、桜の枝ぶりもおもったようではなかった。すこしでもそういったネガティブな気持ちがあるときは、ぜったいにうまくゆかない。失敗だった。
 ならば夜桜だ。そうおもいきめて日比谷公園に向かった。日比谷公園の桜が有名だなんて聞いたことがない。だからいいんじゃないかな、と昼間の新宿御苑の反省をふまえてそうおもったのだ。
 夜の日比谷公園は静かだった。いつもはたくさん見かけるカップルもすくなかった。夜桜のきれいな公園を目指したのかもしれなかった。けれど桜がない名園なんて、ありえない。名のある日本の公園にはかならず桜が植わっていなければならない、と信じて暗い公園内を歩いた。公園の奥の外れまできて、ひっそりと一本だけ立っている桜を見つけた。
 満開の花弁が、テニスコートを照らす眩い照明に、夜だというのに激しく輝いていた。観客のいない舞台で、激しく踊り狂う無名のダンサーのように。
 with GRDII 2009/4/3撮影 日比谷公園
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by bbbesdur | 2009-04-05 20:31 | series