カテゴリ:west japan( 65 )

#665 広島の理由

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「また広島ですか? ほんと好きですねえ、bbbさん」
 Tさんは、翌朝早くに岩国に仕事がありながら、わざわざ広島に宿泊しているぼくにそういった。
「どういう意味よ?」
「男ひとりで広島に泊まるなら、やることは決まってるでしょ」
「原爆ドームで手を合わせてくるとか」
「またまた、真面目ぶって」
 東京から岩国に行くならいまや直行便があるし、たしかにぼくが泊まったホテルの周辺には風俗系の店が多い。
「Tさん、ぼくは風俗店なんて生まれてこのかた一度も行ったことがないんです」
「まさか、そんな男いませんよ」
「いやいるんです、ここに。ほんとうのこというと生まれつきぼくには性欲がないんです。性欲がない男が風俗店行ってなにするの? 」
 Tさんは、一瞬言葉を失った。じっさいそうとう豊かな想像力を持ってしても、性欲のない男が風俗店に行って、なにをするのか想像するのは至難だ。
「性欲がないって、bbbさん子供ふたりいるじゃないの」
「そんなこといったら、じゃあ、どうやってマリア様は馬小屋で受胎したっていうわけ?」
「マリア様は馬小屋でやったんじゃなくて、馬小屋で産んだんです!」
「ともかく明日の朝は遅れないでくださいね。年度末だし、2号線は朝から混みますからね」
 もちろん、その晩、ぼくはホテルの裏でお好み焼き屋を頬張りつつ生ビールを飲んで、早々に部屋にもどって、山崎をちびちびやりながら大岡昇平の「レイテ戦記」を読んで寝た。
 なぜぼくは広島に泊まったのか。Tさんにいっても信じてもらえないだろう悲しい真実を語ろう。
 じつは花粉症のせいなのだ。岩国にはちいさなビジネスホテルしかない。ビジネスホテルは窓を全開にして清掃をするから、部屋もベッドも花粉のなかに埋もれているようなものなのだ。春の出張のたびに、鼻が苦しくて眠れなくなる過去の教訓から、春の岩国泊は避けているのである。広島には高層のシティホテルがあって、窓は開かない。
 というようなことをTさんに説明したとしても、たぶん信じてくれないだろう、これを読んでいる素直な皆さんのようには。
with X-T1 23mm/1.4 広島
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by bbbesdur | 2014-04-05 22:06 | west japan

#664 永遠の銀メダル

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 富士山を知らない日本人は絶無とおもわれるが、北岳を知っている人は山登りが好きな人くらいじゃないだろうか。北岳を自分の目で見たことがある人となるとさらに少ないだろう。羽田空港から広島に向かう右の窓には南アルプス、そして釜無川を挟んだ向こう側に八ヶ岳(写真中央右奥)が見えて興奮する。でも、ちょうどこの同じタイミングで左側の座席の窓からは富士山が間近に見えていたはずなのだ。富士山なんて退屈だ! と太宰治のように言ってみたい気もするが、ほんとのこというと冠雪した富士山を間近に見下ろせる機会って、西日本に向かう飛行機の窓からだけだから、ちょっと気になる。それでも白根三山(写真左手前)と呼ばれるだけあって、この時期間ノ岳、農鳥岳と並んだ北岳は真っ白く冠雪し、美しく、峻厳である。だから今回の出張で、ぼくは平凡な富士を捨てて、座席を右に取った。北岳には銀世界がよく似合う。
 with GR
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by bbbesdur | 2014-02-16 18:52 | west japan

#603 正しいデザイン

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 畳屋はどこもかしこも四角でなくてはならない。このような素晴らしく畳屋らしい店の中から顔を出した渡辺さんがまさか円顔なんてことは許されないし、その性格はもちろん徹底的に四角四面でなくてはならず、ぜったいに融通無碍なんてことはあってはならない。
 with RX100 2012/10 御殿場
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by bbbesdur | 2012-10-12 21:31 | west japan

#601 秋が見つめている

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 昨日、お彼岸の記事をアップしたあとに自分のblogを見たら、前の記事に「敬老の日」とあって、ドキリとした。ひょっとして「暑さ寒さも彼岸まで」って、季節のことをいうと同時に、人の一生のことをいっているの? で、まさか意図的にお彼岸の直前に敬老の日が設定されたなんてことはないよね? そういえば子供の日は初夏だし。
 with RX100 2012/9
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by bbbesdur | 2012-09-27 07:20 | west japan

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「暑さ寒さも彼岸まで」って、誰が初めに言ったのかな? これほど生活に根ざした実感が伴っている言葉も少ない。名文句中の名文句だ。さらに興味深いのが、彼岸花は暑さ寒さに関係なく、カレンダーどおり、毎年おなじ時期に咲くという事実。クロッカスやアネモネや梅や桜とちがって根性がある。暑いからって、遅れたりしないのだ。花にしておくのがもったいない。じっさいウチの近所では毎年きっちりお彼岸に咲く。根性もあるし、時間にも正確だし、明日はなまくらなぼくの代わりに会社に行ってもらうつもりだ。
 with RX100 2102/9 長崎県波佐見
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by bbbesdur | 2012-09-26 20:17 | west japan

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 今日の朝日新聞夕刊に、丸谷才一が吉田秀和を悼む文章を書いている。徹頭徹尾絶賛しているなかで、とくにおもしろいのはモーツァルトに関する批評について小林秀雄を感傷的と切り捨てて、吉田秀和こそが正統だと言い切っている点だ。小林秀雄は文学者であって音楽家ではなかったから、ちょっと可哀想だ。ぼくは吉田秀和がモーツァルトについてだけ書いた本を読んだし、いまでもしぶとく書棚に残っているけれども、これをもってして小林秀雄の「モオツァルト」より優れているとはいいたくない。 道頓堀を歩いていたら、唐突に40番ト短調の第1主題が頭のなかに鳴り響いた、という小林の文章はいちど読んだら忘れられない。どうわすれられないかというと、一昨年、興南高校の夏の決勝戦を見に行った夜に、友人に道頓堀を案内してもらって、そのときぼくの頭にはあたりまえのように自動的にあの文章が蘇ってきて、ト短調が鳴り響いたのだから、やっぱり小林秀雄ってスゴいとおもうのだ。まあ丸谷才一は小林秀雄の文章を啖呵だといって、あんまり評価していないから仕方ない。
 もちろんぼくも音楽好きの例に漏れず、吉田秀和の著作には相当な影響を受けた。クナッパーツブッシュが振ったブルックナー7番の第2楽章で寝てしまい、起きたらまだ第2楽章だったとかいう逸話は、吉田秀和でも眠っちゃうんだから、とブルックナーを好きになる以前の10代後半のぼくを勇気づけてくれたし、ヨーロッパを旅する車中で引いてしまった風邪でグレン・グールドのゴルドベルク変奏曲を聴き損ねた、という文章には読んでいるこちらを本気でがっかりさせてしまう力があった。
 吉田秀和の文章は死ぬまであんまり変わらなかったとおもう。永遠に若い、いつも青臭い音楽青年だったという印象がある。100歳まであと2年だったけれども、最後まで色気を失わず、それがすなわち音楽なのだなあ、ともおもった。音楽ってやっぱりどこかでセレナーデなのだ。バイオリニストは美女に限る、なんていう素直な差別的発言をぼくは愛していた。ご冥福を祈る。今晩はコルトレーンを止めて、マタイでも聴こう。
with GRD3 2010/8 道頓堀
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by bbbesdur | 2012-05-29 20:45 | west japan

#546 ラマダンのとき

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 胃がムカムカして、身体がだるく、やたらと眠く、 胃薬を飲んでも効かない。今週は北で日本酒、西で焼酎、東でワインを、激しく飲んで、結果的に一週間かけて胃をチャンポンにしてしまったらしい。明らかに急性胃炎である。
 薬も効かない、こんなときにどう対処するか、もしかしてぼくのように抑制の利かない哀れな酒飲みがいるかもしれないから秘伝をお教えする。
 24時間、絶食するのだ。水も飲まず、胃薬すら飲まず、ただ、ひたすら、本を読んだり、毛ばりを巻いたり、DVDを観たり、写真を撮ったり、文章を書いたりして、食事の存在をわすれるように努力し、なんとか空腹をうっちゃる。胃の調子がわるいというのに、いつもの食事の時間が来ると脳が自動的に空腹の信号を発するらしく、なかなか手強い。
 20年以上前の沖縄時代、ほとんど毎晩外で飲んでいた。あるとき胃の具合がおかしくなり、内科に行くと急性胃炎だろうということで薬をもらった。しかし1週間経っても症状は改善せず、たまたま首の治療に行った鍼灸院で「飲み過ぎごときで薬に頼るから治りが遅いのだ。疲れているのだから休ませればいいだけの話で、胃を休ませるにはなにも食べない、なにも飲まないことに尽きる。ダマされたとおもって、24時間絶食してみなさい。まちがいなく治るから」と諭され、まさかそんなに簡単に治るはずがないと疑いつつも、理屈は通っているようにおもい、やってみた。文字通り、ウソのように治癒した。
 24時間絶食成功のための最大のコツは夕飯を抜くことである。ぼくの場合、風呂からあがると自動的に右手の人差し指が缶ビールのプルリングを引くシステムが体内に組み込まれているから、風呂にも入れないが、ともかく寝てしまえば空腹はわすれられるし、胃を空っぽにしたまま眠ることによって、いっそうの効果が上がる。
 ただいま13時間経過中である。明日のお昼ごはんが待ちきれない、なんてこと書いていたら、だんだん我慢できなくなってきた。もうこのへんで止めて、寝ることにする。
 with FujiFilm X10 2012/2 佐世保
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by bbbesdur | 2012-02-05 01:10 | west japan

#545 博多国際空港伝説

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 福岡市の人口は約150万人。全国7番目の堂々たる大都市である。県庁も市庁も「福岡」の名で呼ばれ、空港も「福岡」なのに、JR駅だけが「福岡」ではなく「博多」だから、ややこしい。福岡の人はややこしいなんて、まるでおもってないとおもうが、初めて行く人はきっと戸惑う。
 沖縄の同僚が社内研修のために生まれて初めての単独出張で福岡に行ったとき、福岡空港で号泣したという伝説があって、というのも当時、福岡にあったのは博多支店だったからだ。
 着陸した飛行機がターミナルに近づき、福岡国際空港という名前が目に入った途端、どうしたことか彼女は自分がとんでもない過ちを犯したとおもった。自分が目指したのは「博多空港」だったはず、と勘違いしてしまったのだ。ちがう飛行機に乗ってしまったと(電車じゃあるまいし、そんな芸当ができないシステムであることも知らず)パニックに陥った彼女は泣きたい気持ちをぐっとこらえて、飛行機を降りるや到着ロビーの公衆電話に飛びつき、沖縄営業所にSOSの電話を掛けたのだった。しかし出た相手が悪かった。営業所一のおふざけ男は、
「えー、福岡と博多じゃ、まるで方向が正反対じゃないか!」
 と、からかったのだ。彼女は、その瞬間、ほんとうに泣いた。さめざめと泣いた。
 このおふざけ男の「正反対」という言葉は、このときに使うべき表現としてはこれ以上にない傑作で、いまでも笑ってしまう(これを書いているいまも)のだが、ともかく彼女は正反対ということを一瞬にして信じた。もう、泪だけではなく、苦しそうな嗚咽がこぼれ出てきた。
 電話口のおふざけ男はさすがに慌てて、福岡と博多が同一であることを必死で説明したのだが、なにしろ、もともとわかりにくいのだ。いったん信じてしまったイメージを払拭するのは難しいらしく、彼は福岡と博多のちがいを理解させることをあきらめ、ともかく彼女を博多営業所に到達させることが最優先課題であると判断した。
「大丈夫だ、正反対といっても意外にちかくて、福岡空港から地下鉄に乗れば行ける距離だから」
 といって、なんとか彼女を安心させ、到着ロビーから地下鉄の入口までの道順を教え、博多駅に着いたらもういちど電話するようにいって、彼女は納得したというのだ。彼女は博多駅に着いて、たしかに「意外に近かった」とおもったそうで、「助けてくれた」おふざけ男に、泪ながらになんどもなんどもお礼をいった。
 この事件から後、この話が那覇の飲み屋で繰り返されるたびに、彼女は目に泪を溜めていたから、相当なショックだったのだろう。それでもぼくは彼女の頭のなかで福岡と博多がどこを中心に正反対としてイメージされたかを、しつこく糾したのだが、ついぞ答えてくれたことはなかった。おそらく台湾あたりがイメージされたはずだ、とぼくは密かに信じているのだが、彼女はこれ以上自分の恥を拡大させないよう警戒していたようで、 そこはウチナーンチュらしく「だからよー」という都合の良いひと言でおわってしまったから悔しい。しかし電話口での嗚咽もさることながら、営業所に着いたときの「ありがとうございます。ありがとうございます」と礼をいう純粋な彼女のこころに、おふざけ男が不覚にも泪してしまったというから、この伝説のどれだけばかばかしいことか。
 もう20年以上前のことだから、そろそろ告白してくれてもいいはずだ。今月沖縄に行ったとき、念のためにもういちどだけ正反対がどっちを向いていたか聞いてみようか。
 with FujiFilm X10 2012/2 福岡市上空で進路を南西に転じる羽田-長崎便から 中央左に福岡国際空港の滑走路が見えている
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by bbbesdur | 2012-02-04 13:12 | west japan

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 いつかも書いたとおもうけど、ぼくはイルミネーションが苦手だ。なにがいいのか、どうしてアレを美しいとおもうのか、皆目、見当がつかないのである。暗いなら、暗いままのほうが、はるかにロマンチックだとおもうんだけど、どうもカップルはそうおもわないみたいだ。ぼくだったら自分たちが安っぽい関係になった気がしてしまうとおもう。どうしてあのピカピカの、原色だらけの、まるでセンスのない子供だましに、大の大人が「きれーい」といえるのか、ほんとうにわからない。エコ以前の問題である。まるで美しくないのだ。もしもどうしても人工的な光がいいというならば、たとえば、車や信号などが演出なしに、その場限りで見せてくれる光景の方がはるかに都市の美しさを表現しているとおもうんだ。
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 with FujiFilm X10 上 2011/12 佐世保、下 2011/11 大阪
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by bbbesdur | 2011-12-14 00:10 | west japan

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 自転車って元気があっていい。一日でいえば、朝が似合う。勢いがないと前に進まないという構造上の特性が、自転車という乗り物のイメージを決定づけているのだ。元気がない自転車って、ちょっと想像できないもの。いやおうなく使用者に前向きを強要していてよろしい。自転車操業というややネガティブな表現もあるけども、ペダルを漕がなくても、勢いさえついていれば前に進むものだ。上りはきつくても、下りで風を切りながら、休めばいいじゃないか。横断歩道で休めばいいじゃないか。そもそも人生、完全停止するなんてことないんだからさ。
 with FujiFilm X10 2011/11 大阪
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by bbbesdur | 2011-12-13 00:10 | west japan