2017年 03月 14日 ( 1 )

#683 痔の話 第9回 

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「Bさん、失礼します。よろしくお願いします」
 この医師はぼくに限らず、患者のお尻を見る前に、きっと必ずこういっているのだ。これまでお尻を見せた医師からこんな丁寧なセリフを聞いたことはなかった。丁寧だから良いというものではないが、人間扱いされている気にはなる。「きっと恥ずかしいでしょうね、でも大丈夫だからね」と言われているような気がしてくるのだ。だからぼくも必ず、
「こちらこそよろしくお願いします」
 と返すことに決めていた。お尻を見せながら言う言葉としては異例な丁寧さだとはおもうが、ぼくはこの手順が気に入っていた。あるいはかえって医師の丁寧さに恥ずかしくなる人がいるかもしれない。このあたりの感覚はかなり微妙で相当な個人差があるだろうが、たとえば女性が男性医師の前で胸を出すとき、むっつり黙って見られるよりも、こういった言葉を掛けられてから見られる方が医師と患者の関係が明確になって、恥ずかしさも多少は和らぐんじゃないだろうか。
「あー、破れてますねえ。まあこれは仕方ないとして」
 医師はそういいつつ、ぼくのお尻の中心に指を入れてくるのだった。
「痛いですか?」
「いや、それほどでもありません」
「じゃあ、これでは?」
「いえ、特に」
「では、ここは」
「うーん、そうでもないかなあ」
「膿が出切ってしまっているから、痛くないんですね。じゃあ、こんどはK門鏡を入れます。ちょっと痛いかもしれません」
 K門鏡という器具がこの世の中に存在していることをぼくは初めて知ったのだった。一体どんな形状をしているのかと想像を逞しくしつつ、K門鏡が入ってくるのを待った。
「うっ」
「痛いですか?」
「ええ、でも我慢できます」
 痛いというよりも、強い圧迫感があった。あとで形状と素材を確認したけれども、あれは痛くて当たり前だとおもう。金属製だから収縮しない。体の中に収縮しない異物が入り込んでくるから、除外したいと脳が判断して痛いというサインを送ってくるのだ。指を入れられても、患部に触れられない限りはそれほど痛くなかったが、K門鏡はやや様子が異なる。おもわず「先生、指にしてください」と言いそうになった。
「ありました、ありました。ぽっかり穴が開いてます
 とすでにして穴の中を覗き込んでいるはずの医師は、とても嬉しそうにそう言うのだった。お尻の中心の、そのまたどこかに穴が開いているらしかった。

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by bbbesdur | 2017-03-14 20:46 | health care