2017年 03月 07日 ( 1 )

#681 痔の話 第7回 

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「また膿が溜まって来たみたいです」
「ほう、そうですか」
 医師はぼくの顔を見ずに、カルテに目を落としながら、曖昧にそう言った。医師はこの間合いで、目の前の患者がどういった症状を持っているのかを思い出そうとしている。だからぼくはしばらく黙った。繁盛している医院だったら、毎日数知れぬ患者たちが訪れるはずで、一人ひとりの顔なんて覚えていられるはずはないのだ。
「また硬くなりましたか?」
 医師は顔を上げ、ぼくを見てそう言った。思い出したのだ。とくに思い出されて嬉しいわけでもなかったが、それでもすこしは親近感が湧いて来るというものだ。なんたってお尻を見られるのだから、できれば見ている(診ていると書くべきか)相手を嫌いにはなりたくない。このあたりは一般の内科や外科の診察と趣を異にするところである。風邪やノロだったら、嫌な医者でも我慢はするが、痔は違う。嫌いな医師には見せたくない(診せたくないと書くべきだが)。やや先走ってしまうけれども、ぼくが一度で終わらなかった手術を失敗と断定せずに、この医師に再度チャンスを与えたのも、この医師のことがどことなく好きだったからなのだ。このあたりの感覚は男の人にお尻を見られたことのある男でないとわからないとおもう。人間、経験が大切なのである。
「というか、切ったところが裂けて、膿が出ちゃったんです」
「いつですか?」
「昨日です」
 医師はぼくに奥の診察台に横になるように言って、新しいゴム手袋を箱から出した。看護師がバスタオルを渡してくれて、ぼくはズボンとパンツを少しだけ下ろして横になり、腰にバスタオルを掛けてからパンツを膝まで下ろした。診察台は壁に面していて、わたしは壁を向き、ややお尻を突き出すようにして医師を待った。この姿勢はシムズ体位といって19世紀に米国の女医が考案した姿勢だそうだ。かつて肛門科といえば、産婦人科とおなじ大股開きの姿勢だったが(あれは砕石位という)、患者の心理負担になるということで近年はこのシムズ体位が主流になっているらしい。じつはフライフィッシングのウエーダーの最大手にシムズというメーカーがあって、考えてみればあそこも元は下半身専門だった。まったくなんの関係もないとしても。
 この調子のストーリー進行だと、今この時点に辿り着くまでにあと一年かかるかも。そのころにはまた新たな痔で悩んでいたりして、もしかすると死ぬまでこのブログ記事は終わらないのか、いや死ぬまで痔が治らないのは困る! ではまた近々に。

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by bbbesdur | 2017-03-07 21:15 | health care