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#251 100万年前の雨音

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 雨の日がなぜ憂鬱なのか知らない。雨の日が好きだという人をぼくはあまり知らない。なぜかな? からだが濡れるのがいやなのかな。お風呂に入るのは好きなのに。いやいやお風呂に入るのが嫌いな人もいる。そういえば犬や猫もお風呂が嫌いだ。だから雨が嫌いな理由に言葉は使わない方がいいかもしれない。
 こんな光景を想像するのはどうかな。原始の森に雨が降りしきっていて、樹上に掛けた小屋のなかからぼくや君は外を眺めているんだ。そう、ぼくたちが樹上生活をしていた時代のことだ。たとえば、今日は狩りは無理だな、魚釣りもできない、地上には果実もすくない、雨がつづくと家族が飢えてしまう、とか、そういった具体的なことはかんがえないで、ただ枯れ枝で編むように作った小屋の入口から、外を眺めている自分をおもうんだ。
 雨が降りしきっている。昼なのに夜のように暗い森のなかには雨だれの音ばかりが聴こえている。鳥の声も聴こえない。背後には妻も子も母も父も祖父も祖母もいて、みな黙って雨を見つめている。黙っているのは不幸だからではない。言葉を持っていないからなのだ。ぼくたちの体毛には屋根から落ちてくる雨滴が光っている。ひょっとしたら後ろにいる妻が、掌でそっと払ってくれるかもしれない。もしかすると、そんな瞬間に「愛」という観念がぼくや君のこころに宿り始めたのかもしれない。でもその観念が「愛」という言葉を得るまでに、それからさらに100万年単位の時間が必要だったんだ。愛を得るまでに100万年以上かかったぼくや君だけど、一夜で愛を失うこともある。
 with DP1 2009/12/11 六本木
by bbbesdur | 2009-12-12 09:05 | around tokyo