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#234 かんがえる憂鬱

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 会社の同僚のひとりが定年を迎える。ぼくたちは奥武島にある仲間の家に集まってお祝いをした。ところが彼に元気がない。どうしたんですか? と聞くと、曖昧な答えが返ってくるが、どうやら定年鬱とでも呼ぶような具合だ。
 彼は学校を卒業して以来、技術畑一筋でここまできた。釣りやら、野菜の栽培やら、なにやらかにやら趣味は多方面に及び、家族と過ごす時間を大切にしているし、読む本の数もなかなかのものだ。だから定年しても暇を持て余すことはないだろうとおもっていたが、そうではなかった。やはり彼は仕事が一番好きだった。技術者として、困難な技術的問題に直面しているときこそが、自分が生きている瞬間だった。辞めるいまになってそれに気がついたというのだ。
 仕事をやっているときにはとても好きだとはおもえず、辞めるときになって好きだったことがわかる、なんて、できそこないの恋愛ドラマみたいだ、とぼくが笑うと、「ははははっ」と力なく笑って、いいかえしてもくれないのだから困ってしまう。
 自分を振り返ると、ぼくはこころからいまの仕事が嫌いだから、定年を迎えて鬱になることはないし、なんといってもそのかわり、いまが憂鬱なのだ、とおもっている。まさかこのぼくが定年を迎えて、じつはこの仕事が好きだった、なんておもえないけど、もしおもっちゃったらどうしよう。いまも憂鬱で、仕事を辞めるときも憂鬱だなんて、つまりは人生そのものが憂鬱だったのだ、という事実に気づいてしまったら、どうしよう。
 with GRD3 2009/11/22撮影 奥武島
by bbbesdur | 2009-11-23 10:48 | okinawa