#163 北海道シリーズ 第3回 <ひとり旅という名の甘え>

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 初めてのひとり旅では北海道を一周する計画だったが、アルバイトで溜めた予算は網走で尽きた。札幌に帰省しているはずの後輩の女の子に電話した。
——帰りの列車賃がなくなったんだ。夏休み明けに返すから貸してくれないか?
 待ち合わせた場所はなぜか夜のススキノだった。かつ、なぜか彼女の母親がいっしょだった。ビアホールに行って、ブーツの形をしたグラスでサッポロビールをたくさん飲んだ。うっかり靴先を上にして飲むと、パコッ、と音を立ててグラスからビールが飛び出し、顔にかかった。後輩はなんどもおなじ過ちを繰り返すぼくを笑った。
 彼女も母親もほんとうによく飲んだ。母親はその勢いでぼくたちに訊いた。
——ねえ、あなたたち、ひょっとしてお付き合いしているの?
——まさかあー!
 彼女はこころからおどろいたようで、ぼくにはそれがすこし残念だった。ぼくは気を取り直してさらにビールを飲んだ。娘がぼくのような男と付き合っていないことに安心したのか、母親はぼくにこういった。
——あなた、ひとり旅はいいけど、帰りの汽車賃がなくなったからって、後輩の女の子にお金を借りるなんて、まるでなってないわねー。そーゆーのは、ひとり旅っていわないとおもうな。
 酔っぱらってきた母親を見て、後輩はぼくにすまなそうな顔をした。けれどもぼくは母親のその言葉が身に沁みた。北海道をヒッチハイクで旅したことを友人に武勇伝のように語ることは止めよう、だれにもいわないことにしようとこころに決めた。
 それから28年後、自分の息子が当時のぼくと同い年となって、ひとり旅に似たことをやってはいる。
「おとうさんが、オマエくらいの頃はなあ・・・・・・」と語りたくてならないけれども、親の昔話が子供たちのこころに響かないことも、当時のぼくをおもいだせばわかることだ。
 with GRDII 2009/7/9撮影 苫小牧駅
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by bbbesdur | 2009-07-15 19:02 | series