#124 娘の微笑み

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 昨夜、23:30過ぎ、庭先で突然、猫が愛を語り始めた。ぼくは悟られないように部屋の電気を暗くしてから、そっとカーテンを開けた。いっぴきの牝猫が芝の上に身体をこすりつけるようにして転げ回っていた。
 暗がりに目を凝らすと薄暗い玄関灯の脇に牡猫が地蔵のような影になって佇んでいた。牡猫はじっとしたまま、牝猫を見ていた。
 牝猫の声はさらにおおきくなった。声にはだれが聴いてもわかるほどの性的なニュアンスがあった。ぼくは2階でPCに向かっているだろう娘が気になり始めた。彼女の部屋からはちいさな庭全体が見下ろせる。教育上好ましくない、なんておもわない。猫の交尾は、めしべとおしべよりずっとわかりやすい。それに、だいいち娘はそんな年齢ではなかった。その日ぼくは娘の成人式用の写真を撮ったのだった。娘は着物を着て「まあ、そうだなあ、美しくなくはない、といってもいいすぎじゃないんじゃないかなあ」くらいの美しさで親バカを愉しませてくれた。いろいろと事情があって、こんな奇妙な時期に成人式用の写真撮影をしたのだ。娘はいままさに100枚以上の自分の写真をPCで眺めているはずなのだった。
 ぼくはカメラを持って忍び足で玄関扉を開けた。牡猫はすでに牝猫に触れる距離まできていた。さらに近づいてカメラを構えた瞬間だった。玄関扉が開いて、娘が出てきた。
「喧嘩してるの?」
 二匹の猫はこちらをむいた姿勢のまま、固まったようになった。
「そうみたいだね」
 ぼくの声を聴いた猫たちは、そろりそろりと庭から出て行った。ぼくはあきらめて玄関へもどった。娘はどことなく曖昧な表情でぼくを見た。喧嘩してるの、? というわりには、どこか中途半端な微笑みを頬にのこしたまま。
 いつまでも幼かった娘も、もうすぐ成人。なあ娘よ、オマエいつから小学生じゃなくなっちゃたんだい?
 with GRDII 2009/5/26 撮影 西条
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by bbbesdur | 2009-05-31 12:11 | around tokyo