#123 3人の背中

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 坂のおおい街だった。ぼくたちは彼を両脇に抱えて坂を上ったり、下りたりした。彼の家はなかなか見つからなかった。
 雨が降っていた。朝からしとしとと降り止まず、呆れるほど根気よく降りつづけていた。ぼくたちも根気よく彼の家を捜しつづけた。彼を両脇に抱えたふたりの若者はぼくの同僚だった。ふたりとも優しかった。不平のひとつもいいたくなるだろうに、しかしふたりには経験があった。ふたりには、酔いつぶれた真ん中の男の年齢だったことがあったのだ。ぼくには前を行く、両脇の2人の年齢だったことがあった。
 ぼくは後ろから3人に2本の傘を差しかけながら、坂を行ったりきたりした。両腕が痺れてきたけれども、前を歩くふたりの右腕と左腕はもっと痺れているはずだった。
 右側の男がぼくを振りむいていった。
「なんだか懐かしいですね」
 左側の男が、すこし笑って、
「ほんとうだね」
 といった。
 ぼくはふたりの若々しい声をどこかで聴いたような気がした。それが新宿だったか、池袋だったか、渋谷だったか、あるいは那覇だったか、記憶にないが、ぼくは右側の男だったことがあり、左側の男だったこともあった。そして、もちろん真ん中の男だったことも。
 with GRDII 2009/5/29撮影 宮崎台
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by bbbesdur | 2009-05-30 21:59 | around tokyo