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母の音楽

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 今日、母を誘ってふたりで音楽会に行った。有楽町の会場で待ち合わせて、管弦楽曲をふたつ聴き、外でお茶を飲んでから、こんどは宗教曲をふたつ聴き、近くの中華料理店で食事をして、別れた。
 母は若い頃から音楽が好きだったらしいが、専門的な教育は受けていない。昭和20年代後半に結婚し、父とともに福岡から上京した。三鷹の4畳半アパートに住み始めたときも、毎晩帰宅の遅い父を待つ母の唯一の愉しみはラジオからながれてくる音楽だった。待ち焦がれた父が帰ってきて、母は別なリズムに揺さぶられ、ぼくはそんな母のお腹のなかで生命を得た。母のお腹のなかでのことは憶えていないが、温かい母の羊水のなかで聴いた音楽は、いまもきっとぼくのからだのなかにながれている。
 今日聴いた4曲はどれもが素晴らしかった。バッハだから素晴らしいのはあたりまえかもしれない。会場にはたくさんの若いカップルがいて、老夫婦がいて、女友達同士がいて、音楽サークルの仲間同士がいて、親子がいて、きっとどこかに兄妹もいる。音楽が結んでいるその絆は見えないけれども、ピアノ線のように張りつめていて強固だ。バッハはそういった見えない繋がりを音符にした。だから彼の音楽を聴くぼくたちはこころを揺さぶられるのだ。今日、ぼくが聴いた音楽はきっと、かつて母のお腹のなかにながれていた、あの赤く温かい鼓動のリズムだったのだ。
 with GRDII 2009/5/3撮影 東京国際フォーラム(ラ・フォル・ジュルネ初日)
by bbbesdur | 2009-05-03 23:39 | around tokyo