#474 トリスタンとイゾルデ

a0113732_232165.jpg

 いま、わたしは彼女を愛するために自分が生まれてきたのだと確信している。夏の間中、晴れれば葉影にグラマラスなシルエットを追い、雨が降れば植え込みの下に濡れた身体を、こっそりと覗き見ていた。彼女も、わたしの視線に気づいていたはずだ。
 白熱していた太陽が西に傾き、黄色くなると、草木も黄色く色づいた。彼女の大鎌が一閃すると、無防備なコオロギたちはたちまち息絶え、幼いころ天敵だった蟻は、逆に彼女を怖れて逃げ惑うようになった。
 わたしはといえば、彼女を見ているだけで幸福だった日々は過ぎ、愛し合いたい、激しく彼女をかんじたい、そんな狂おしい衝動が身体を突き抜けるようになった。
 わたしにあと幾日が残されているのか知らない。朝起きると寒さに身体が動かなくなっていることもある。だからといって死を怖れているわけではない。怖れているのは愛を失うことだ。
 今日、そう、いままさに、わたしは彼女を自分のものにする。 死を怖れるこころに愛はない。 愛し合ったあと、わたしの身体を貪り尽くした彼女は、たくさんの卵を産む。そしてまた春がきて、南風のなかに湧き出るこどもたちは、わたしと彼女の愛の魂だ。
 with GRD3 2011/10
[PR]
by bbbesdur | 2011-10-11 23:06 | around tokyo