#473 秋を下る

a0113732_10423890.jpg

 会社の仲間と山に登った。天気予報が告げたとおり、晴れ、ときどき曇りの空の下を、2時間半ほどかけて頂上に辿り着いた。1,200メートルの山のことで、森林限界を抜けることなく、景色は日常とさほど変わらなかった。視界が良ければ、正面に立ちはだかるはずの富士山も見えなかった。ときどき樹林の合間から、白っぽい眼下が見渡せるだけだった。
 山頂には6人分のランチマットを広げる空間がなかった。それほどたくさんの人がいた。人は山に登りたがるのだ。
 頂上から見下ろす外界は春のようにぼんやりと霞んでいた。白く、薄く広がった湿気の案外ちかくに海があった。海は海の色をしておらず、ただ陸地よりも黒ずんで見えた。だれかが、あれが江ノ島だ、といった。目を凝らすと、たしかに江ノ島らしき島影が見えた。
 おにぎりを食べていると、 微かに吹いていた風が、すこしずつ強くなってきた。 コーヒーを淹れた。身体がすこし暖まった。感激も驚きもなにもなく、ただ汗を掻いただけなのに、不思議なことにはこころが晴れ晴れとしていた。穏やかな秋の陽射しがこころのなかまで射し込んでいたのだ。皆の顔にも幸福そうな光があった。絶景は必要とされていなかった。
 別コースで下った。ほとんど登山者がいなかった。稜線には北風が強く吹いていた。我々は秋のなかを、ひっそりと街へと降下していった。
 with GRD3 2011/10 丹沢
[PR]
by bbbesdur | 2011-10-10 11:01 | around tokyo