#414 シャツ伝説

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 彼がそのピンクの長袖シャツを買ったのは6年前のことで、しばらくは外出用として着ていたが、袖と襟首にほつれが出てきたのを境に、2年前に部屋着へとローテーションした。それまで使っていたのはブルーのストライプシャツで長い間の勤めを終え、ボロボロの姿になって引退した。
 交代式でピンク・シャツは、ストライプ・シャツと長袖同士で握手をして、彼に聴こえるか聴こえないかの小声で「ごくろうさん」といった。彼は長年の勤めを慰労するように、丁寧にストライプ・シャツの皺を伸ばした後、ゴミ箱に入れた。
 そのときピンクシャツはぐすぐすと泣いた。彼は、
「しっかりしなさい、シャツには悲しみが似合わないぞ」
 といった。するとピンクシャツは、
「すみません、しかし悲しいわけではありません。わたしも是非ストライプシャツさんのような立派な働きをしたいと、おもいあまって泣いているんです。パンツさんや靴下さんやブラジャーさんにはわるいのですが、我々誇り高きシャツには脈々と引き継がれてきた伝説があるのです」
「ほう、それは知らなかった。どんな伝説なんだい?」
「皺を伸ばして捨てられたシャツは、また次に生まれ変わってもシャツになることができるんです」
「そうだったのか」 
 昨日、ピンク・シャツが寿命を迎えた。彼は皺を伸ばした後、ふいに手を止め、シャツをアイロン台に運んだ。
 彼は丹念にアイロンがけをしながら、スチームが出ていないのに奇妙にしっとりと湿り気のあるピンクシャツに手をやりながら、彼と出会った日のことをおもいだしていた。
 with GRD3 2011/5
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by bbbesdur | 2011-05-06 14:56 | 短編小説